アクスアット

2001/07/06 TCC試写室
カザフスタンの小さな村を舞台にした兄と弟のドラマ。
誠実に生きようとした男が誠実さゆえに不幸になる。by K. Hattori

 カザフスタンの小さな村に、遠い昔に村を出ていった男が帰ってくる。男の名はカナート。都会で莫大な借金を作った彼は、村に残っている兄アマンに金を無心しようとやってきたのだ。身勝手な弟の要求だが、アマンはただ人肉親である弟の願いを聞き入れて金を用意してやる。弟は連れてきた婚約者ジャンヌと生まれたばかりの子供を村に残したまま、ひとりで都会へと戻ってゆく。アマンは義妹とその子供を家に引き取って世話し始めるが、これが彼と結婚の約束をしていた村のボスの娘の嫉妬をかき立てる。ジャンヌたちをすぐに追い出せと恋人に言われたところで、誰も頼るもののいないふたりを家から放り出すわけには行かない。何よりもふたりは弟の妻と子供。アマンにとっても大切な家族なのだ。だがそんなアマンの態度は、ボスの娘をさらに逆上させ、それを見かねた村のボスまでがアマンを逆恨みする……。

 ひたすら誠実に生きようとしている男が、その誠実さゆえにどんどん不幸になってゆく話。アマンが弟の要求を突っぱねていれば、弟の妻や子供の面倒を見なければ、彼は自分自身の平安な生活を守ることが出来ただろう。だがアマンはそれが出来ない男だ。何年も音沙汰のなかった弟が戻ってくれば、彼のために羊を屠ってもてなしの用意をする。困っている弟のために金も用立ててやる。他に身よりのない弟の家族を、自分の家族として守る義務を果たす。もっともアマンは弟が帰ってくるまで、ある種の冷酷さと計算高さで皆から一目置かれる存在だったのかもしれない。誰も後ろ盾になってくれるものもない村の中で、ボスに次ぐナンバー2の地位を手に入れたのだ。当然きれい事だけではすまされない部分もあっただろう。ボスの娘との結婚も、そんなアマン計算高さによるものだったのかもしれない。アマンを自分の右腕のようにかわいがる村のボスも、アマンのそんな抜け目ない性格を気に入っていたのかもしれない。

 アマンは弟が現れたことで変る。いや、彼はジャンヌとその子供を世話することで、人情味あふれる昔気質の男に変身したのかもしれない。アマンは弟に対する義務感でジャンヌたちを世話しているのではなく、相手がジャンヌだったからこそ甲斐甲斐しく世話をしているのかもしれない。家族にたいする義務と、特定の女性に対する特別な気持ちの間で、アマンの気持ちは揺れ動く。その揺れは外部からはほとんど見えないが、映画の終盤で弟が再び村に戻ってきたあたりから大きな葛藤としてアマンの中で大きくなっていくようにも思える。

 監督・脚本・制作はセリック・アプリモフ。先日観た『3人兄弟』の監督だが、この映画の方が断然面白かった。この映画にはカザフスタンの今が描かれているし、主人公の背景にある、彼の属している社会の全体像がうまく描かれている。羊毛の取引をする場面や、村の実権がひとりのボスの手に握られている様子なども面白い。「なるほどこんな世界があるのだなぁ」と観客に思わせるだけのものが、この映画にはあるのです。

(英題:Aksuat)

2001年8月4日〜9月24日 三百人劇場「ロシア映画の全貌2001」
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