イースト/ウエスト
遙かなる祖国

2001/07/05 松竹試写室
第二次大戦後のフランスからソ連に渡った女性の悲劇。
骨太で見応えのある歴史メロドラマ。by K. Hattori

 第二次大戦直後の1946年。ソ連のスターリンは世界中に散らばった亡命ロシア人に特赦を与え、国土再建のため祖国に戻るよう呼びかけた。この呼びかけに答えて、フランスに逃げていたロシア人とその家族数千人がソ連行きの船に乗り込む。その中にはロシア人医師アレクセイと、フランス人の妻マリー、まだ幼い一人息子セルゲイの姿があった。共産主義社会の建設という新しい理想。だがそれ以上にアレクセイを魅了するのは、強い望郷の念に他ならない。マリーもまだ見ぬ夫の故郷で、夫や子供と共に生きていくことを決意している。だが港に着いた彼らを待っていたのは、思ってもいないソ連の裏切りだった。帰国した人々にかけられるスパイの濡れ衣。目の前で破棄されてしまうフランスのパスポート。係官に逆らえばその場で射殺。従順にしていても収容所送り。アレクセイはモスクワを遠く離れたキエフの工場で働くことと引き替えに、マリーが収容所に送られることを何とか食い止める。だがキエフでの生活も酷いものだ。共同アパートでの生活にはプライバシーがなく、随所に秘密警察や密告者の目が光っている。ソ連は国全体が、出口のない巨大な監獄のような世界だった……。

 『インドシナ』『フランスの女』のレジス・ヴァルニエ監督が描く歴史メロドラマ。共同脚本に『モスクワ天使のいない夜』『コーカサスの虜』のセルゲイ・ボドロフ監督を招き、旧ソ連の生活ぶりをリアルに再現している。マリーを演じているのはサンドリーヌ・ボネール。夫アレクセイを演じるのは『コーカサスの虜』『シベリアの理髪師』のオレグ・メンシコフ。もともと別の映画の取材のためロシアを訪れていたヴァルニエ監督が、現地でフランス語を流暢に話す何人かのガイドと知り合ったのがこの映画誕生のきっかけだったという。彼らの父親はロシア人で母親はフランス人。1946年にスターリンの呼びかけに答えてソ連に戻り、そのまま中央アジアの過疎地に“流刑”させられた人たちだった。この映画に登場するマリーやアレクセイはもちろん架空の人物だが、その背後には実際に同じような目に遭わされた数多くの人々が実在するのだ。その数は3千人とも1万2千人とも言われているらしい。その中には、配偶者と共にソ連に渡った外国人も含まれている。

 映画は歴史に翻弄された女性の苦しみと戦いを力強く描いた、骨太で見応えのある作品。しかし僕はこの映画を観ながら、戦後日本から北朝鮮に渡った日本人妻たちについて考えていた。昭和34年から59年まで続いた北朝鮮への帰還事業で、在日朝鮮人男性の配偶者として北朝鮮に渡った日本人女性の数は1831人。数年前から少数の「里帰り」が実現しているが、その数は全体に比べるとあまりにも少ないし、彼女たちには一時的な「里帰り」しか許されていない。この映画を観る人たちは、この映画のヒロインと同じような辛苦を味わった日本人女性たちが今も北朝鮮に大勢いることを、心のどこかに留めておくべきだろうと思う。

(原題:EST-OUEST)

2001年今秋公開予定 シネスイッチ銀座
配給:シネマパリジャン

ホームページ:http://www.cinemaparisien.com/

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