オー・ブラザー!

2001/07/02 GAGA試写室
刑務所を脱獄した3人組がどういう訳か人気レコード歌手に。
コーエン兄弟のロードムービー風コメディ。by K. Hattori

 『ビッグ・リボウスキ』以来待ちに待ったコーエン兄弟の新作は、1930年代のアメリカ南部を舞台にしたコメディ映画。とにかく楽しい。キャッチコピーは「構想なんと3000年!」ということなんだけど、これは映画の原作が紀元前8世紀の詩人ホメロスの「オデュッセイア」であることからの発想。これは無理なこじつけでも何でもなく、映画のタイトルにはちゃんと「Homer」の名がクレジットされているし、主人公の名はユリシーズ(オデュッセウスの英語読み)だし、盲目の予言者は出てくる、歌声で旅人を惑わす女たちも出てくる、魔法の酒で仲間は動物に変えられる、一つ目の巨人に殺されかけもする、最後は妻の待つ故郷の街へ戻って妻への求婚者と対決する。しかしこれを「ホメロスでござい!」と言うのは、コーエン兄弟流の諧謔趣味だろう。ロードムービーの元祖として、「オデュッセイア」を引き合いに出すアイデアはなかなか面白いけどね。

 主人公ユリシーズ・エヴェレット・マックギルを演じているのはジョージ・クルーニーで、彼はコーエン兄弟作品に初出演。相棒ピートを演じるのはコーエン兄弟映画の常連ジョン・タトゥーロ。同じく相棒デルマーを演じているのはティム・ブレイク・ネルソン。刑務所を脱獄したこの3人の旅に、ジョン・グッドマンやホリー・ハンターなどのコーエン兄弟作品常連の名優達がからむ。コーエン兄弟は脚本も演出もハリウッド随一の腕前を持つ人たち。それが『ファーゴ』のような方向に向かうと少々嫌味なのだが、この映画のようにナンセンスな笑いに向かうと抜群の面白さを発揮する。主人公達が結成した即興ユニット“ずぶ濡れボーイズ”の録音シーンや、彼らがクライマックスの政治集会で歌い出すシーンの盛り上がりっぷり、メンバーのひとりであるトミーが拉致されたKKK集会の馬鹿馬鹿しさには、もう大笑い。KKKの集会はバズビー・バークレー風の振り付けがしてあって、最後は旗も出てくる。もう本当にバカ。

 物語はまるごとホメロスからの借用で、映画の中にちりばめられている細かなエピソードもいろんな映画からの引用らしきものが多い。例えば本筋とはまったく関係なく、突然ギャング映画のようなエピソードが入り込んだりする。映画全体としては「家族が一番」とか「仲間を大切に」とか「人生いつだってやり直せるぞ」というテーマを持っているかのようにも思えるが、こんな使い古されたテーマを持ってくるのは、何も語っていないのと同じなのです。『ファーゴ』でコーエン兄弟を誤解してしまった人には気の毒だが、この映画はテーマ云々を論じるのではなく、コーエン兄弟のセンスと演出手腕を楽しむ映画だと思う。もちろん1930年代以来のアメリカ映画をコーエン兄弟流に引用し、再構築した映画という評価の仕方も出来るのだろうけれど、そんな小難しい理屈をこねくり回すのはごく一部のマニアだけ。むしろこの映画は、物凄く洗練されたバカ映画として、げらげら笑いながら観るのが正しいように思います。

(原題:O BROTHER, WHERE ARE THOU?)

2001年10月公開予定 シネセゾン
配給・宣伝:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/o-brother/



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