金色の嘘

2001/06/29 松竹試写室
ジェイムズ・アイボリー監督によるヘンリー・ジェイムズの映画化。
風格のある立派な映画になっている。by K. Hattori

 ヘンリー・ジェイムズの小説「黄金の鉢」を、ジェイムズ・アイボリー監督が映画化した2時間10分の文芸大作。アイボリー監督にとってこの映画はヘンリー・ジェイムズ作品3度目の映画化(過去2作は『ヨーロピアンズ』と『ボストニアン』)であり、ジェイムズ作品の集大成かつ決定版と位置づけられているらしい。物語の舞台は20世紀初頭のヨーロッパ。裕福なアメリカ人女性シャーロットは、イタリアの没落貴族アメリーゴ公爵と恋人同士だったが、母親の強い反対もあって別れざるを得なくなる。アメリーゴはアメリカ人大富豪アダム・ヴァーヴァーの一人娘マギーと結婚。マギーはシャーロットとは幼なじみの親友だが、自分の夫がかつて親友と親しく交際していたという事実を知らない。一方アメリーゴを諦めきれないシャーロットは、まるで当てつけのようにマギーの父アダムと結婚してしまう。それから数年後、今や義理の母子という間柄のシャーロットとアメリーゴは、互いのマギーとアダムの目を盗んで昔通りの親密な関係を取り戻す……。

 映画はシャーロットを中心に物語が進行していく構成。演じているのはユマ・サーマンだ。映画を観ている途中で、僕はこの人間関係が『風と共に去りぬ』とそっくりであることに気が付いた。スカーレット・オハラは愛するアシュレーが従姉妹のメラニーと結婚してしまったことに腹を立て、衝動的にメラニーの兄と結婚を決める。『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラと、『金色の嘘』のシャーロットは、ひどく似ていないだろうか。原作がどうなっているのかはよくわからないが、映画化したジェイムズ・アイボリー監督は、主人公シャーロットを「ヨーロッパで育ったもうひとりのスカーレット・オハラ」として描いているように見える。

 原作のタイトルであり、この映画の原題でもある「黄金の鉢」とは、映画の導入部と終盤に登場するビザンチン様式の鉢のこと。美しい金箔で飾られた水晶製の鉢はひとつの傷もない完璧なものに見えるが、じつはその美しい金箔の下に、目に見えない傷を隠している。美しく完璧に見える鉢が黄金の下に隠す傷は、この映画で描かれる2組の夫婦の関係を象徴しているのだ。「私たちの結婚には何の問題もない」「結婚生活の危機になるようなことについては何も知らない」という嘘に塗り固められ、かろうじて守られている2組の夫婦生活。見え透いた嘘であろうとも、それが必要なら嘘を突き通すというこの映画のテーマは、現代人の感覚とはとても相容れないものかもしれない。映画を観ている途中で何度も「正直に洗いざらい全部うち明けて、そこから話し合った方が手っ取り早いのではないか?」と思ってしまった。でもそうすることで得られることは何なのか? 完璧に見える鉢から金箔をはがし、「ほらここに傷がある!」と指さすことにどんな意味があるのか……。

 マギー役のケイト・ベッキンセールは『パール・ハーバー』の10倍は素晴らしい。ニック・ノルティも最高。

(原題:The Golden Bowl)

2001年今秋公開予定 Bunkamura ル・シネマ
配給:シネマパリジャン

ホームページ:http://www.cinemaparisien.com/



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