天国で殺しましょう

2001/06/14 日仏学院エスパス・イマージュ
性悪女房を永久に黙らせる方法を弁護士が伝授?
サッシャ・ギトリ原作のブラック・コメディ。by K. Hattori

 気のいい農夫ジョジョと妻リュリュの関係は、もう長いこと冷え切っていた。リュリュはことあるごとに夫の仕事を邪魔し虐待する。農場での仕事を愛しながら、財産をすべて妻に握られているジョジョは逃げ出すこともできず、妻の罵詈雑言や虐待に耐え続けている。いっそ妻が誰か別の男と浮気でもしてくれないか。一番いいのは、彼女が事故や病気でポックリ死んでしまうことなんだが……。性格の悪いリュリュの言動には、村人たちみんながうんざりしていた。村の全員がジョジョに同情的な目を向けているが、それは何の解決にもならない。だがある日ジョジョは、敏腕弁護士ジャクルーアが殺人罪の被告を25回連続で無罪にしたというテレビニュースを見る。自分を救ってくれるのは彼しかいない。ジョジョはジャクルーアの事務所に出かけ、「妻を殺したので自分の弁護士になってほしい」と告白する。

 サッシャ・ギトリの映画『我慢ならない女』のリメイクだという。監督は『クリクリのいた夏』のジャン・ベッケル。『奇人たちの晩餐会』で史上最大の間抜け男を演じ、『クリクリ〜』にも出演していたジャック・ヴィルレが妻に虐待される不幸な農夫ジョジョを演じ、その妻リュリュをジョジアーヌ・バラスコが演じている。弁護士ジャクルーアを演じるのは『恋するシャンソン』のアンドレ・デュソリエだが、彼は同じくギトリ原作の映画『カドリーユ』にも出演していた名優だ。彼が自分の事務所でジョジョから話を聞く場面は、映画の中でも面白い場面のひとつだと思う。

 映画の上映時間は1時過半とコンパクト。映画の前半ではリュリュの執拗なジョジョ虐待がしつこく描かれ、観客の同情を十分に引きつける。リュリュの意地悪な言動はひとつひとつを取れば些細な悪戯みたいなものなのだが、それが執拗に何度も続くから陰惨なものになるのだ。中盤ではジョジョの弁護士事務所訪問と、笑っちゃうしかない殺人劇。ここは「ジョジョとジャクルーアの会話の取り違え」と「ジョジョとリュリュの思惑のすれ違い」が連続して登場し、観客をニヤニヤ笑わせる。後半は法廷ドラマになるが、ここは爆笑の連続。ジョジョが涙ながらに切手の話をするところは、ジャック・ヴィルレの名演技もあって本当に観客の涙を誘う。それがふと現実に引き戻される場面で、笑いを生むという面白さ。検事役の役者は『奇人たちの晩餐会』で税務署員を演じていた人(『原色パリ図鑑2』の極悪仕入れ担当者)だから、これがもう憎たらしくてしょうがない。このあたりのキャスティングもばっちりです。

 しかしこの映画が素晴らしいのは、裁判を終えたジョジョが自宅に戻ってくるエピローグだと思う。無人の家にたったひとりで戻ったジョジョが、自分の結婚式の写真をしんみりと眺めるシーンの寂寥感。鬼のような女房は確かにいなくなったけど、それと同時に、農場にあった生き生きした空気もなくなってしまう。このほろ苦さがあればこそ、映画の最後がキリリと引き締まるのです。

(原題:Un Crime Au Paradis)

2001年6月23日15:00上映 パシフィコ横浜
(第9回フランス映画祭横浜2001)

ホームページ:http://www.framework.jp/france2001/
http://paris.infossimo.com/
http://www.elle.co.jp/fr/
http://www.marieclaire-japon.com/france2001/
http://www.nifty.ne.jp/fanta/france2001/



ホームページ
ホームページへ