リザ

2001/06/07 日仏学院エスパス・イマージュ
フランス人はいかにしてナチスのユダヤ人抹殺計画に協力したか。
映画史のミステリーをたどるユダヤ人青年の物語。by K. Hattori

 戦前のスター俳優をテーマにしたドキュメンタリー映画を企画する若い映画監督サムは、最初のテーマとして今はすっかり忘れ去られた二枚目スター、通称“不死身のシルヴァン”を選ぶ。新たに発見された未編集のフィルムを確認中、中から現れた1枚の写真。それを頼りにして、サムはかつてシルヴァンの恋人だった女性リザを訪ねる。リザが語り出す、若い日の激しい恋の思い出。それはサムにとっても、生涯忘れられないものとなる。

 物語は第二次大戦下のフランスと現代とを往復するように進行していく。山奥にある結核療養所に入所治療中のリザは、そのすぐ近くで映画を撮影中だったシルヴァンに出会って一目惚れ。撮影中のけがで彼が療養所にかつぎ込まれてからは献身的に看護し、やがてふたりの間には愛が芽生える。売り出し中の映画スターと、当時は不治の病だと思われていた結核患者のリザ。だがシルヴァンは病気を恐れもせず、スキャンダルも気にせず、リザのことを一途に愛してくれる。ふたりの愛を誰も阻めない。だがシルヴァンも召集されて前線へ行くことになり、やがてドイツの捕虜になったという知らせが届く。フランスはドイツに降伏して占領され、戦争とは無関係に思われた療養所にもドイツの兵隊たちがやってくる。

 「戦前のスター秘話」「恋人が語るスターの真実」というフェイク・ドキュメンタリー風の悲恋物語かと思ったら、映画は途中から、ドイツ占領下のフランスで公然と行われたユダヤ人迫害と、その根底にあったユダヤ人差別の問題に切り込んでいく。世間から差別の目で見られていた結核患者たちの中でも、さらに差別され一段低く見られているユダヤ人たち。ドイツのユダヤ人抹殺政策に協力してしまったフランス警察と多くの民間人たち。第二次大戦では「連合国」の一員となり「戦勝国」となったフランスでは、こうした問題はあまり触れたくない歴史の恥部だろう。この映画はそのフランス近代史の暗部に、ラブストーリーや家族の物語という形式を借りて近づいていく。物語の狂言回しとなっているサムが、ユダヤ人である父母のもとで非ユダヤ的な教育を受けた理由は何なのか。そんな身近なミステリーが、シルヴァン失踪という映画史の謎とリンクしていくところがミソ。

 映画史のミステリーとユダヤ人差別という問題を結びつけたアイデアは面白いし、過去のユダヤ人差別問題が現代にも影を落としているという問題提起の仕方も悪くない。ただし映画としては過去と現代のからめ方に少しチグハグなところがあるし、エピソードの構成や配置に雑なところがあると思う。伏線として配置してあるエピソードが、あまり効果を生んでいないケースが多々あるように思えるのだ。これは脚本上の問題だろう。しかし役者の力もあって、ひとつずつのシークエンスは見応えがある。現代のリザを演じたジャンヌ・モローの貫禄。若いリザを演じたマリオン・コティヤールとシルヴァン役のサガモル・ステヴナンの初々しさ。サムを演じたブノワ・マジメルは注目の若手スターです。

(原題:LISA)

2001年6月21日12:30上映 パシフィコ横浜・会議センターメインホール
(第9回フランス映画祭横浜2001)

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