贅沢な骨

2001/05/28 シネカノン試写室
麻生久美子演じるホテトル嬢とつぐみ演じる少女の奇妙な生活に、
永瀬正敏がからまるという行定勲監督作品。 by K. Hattori


 「私は不感症だからあんな仕事ができるのよ」と言うミヤコは、電話1本で見ず知らずの男たちからホテルに呼び出されるホテトル嬢だ。同居人のサキコには仕事をさせず、衣食住に渡る生活の面倒一切を見ている。小さな部屋の中で完結している、ミヤコとサキコの生活。ミヤコはまるで集金にでも行くように、ふらりと部屋から仕事に出かけ、またふらりと帰ってくる。仕事にまつわる諸々のことを、部屋の外から中に持ち込むことはない。なぜなら彼女は不感症だから。男たちは彼女の上で勝手に満足し、彼女に金を渡して去っていく。だがミヤコはある日ちょっと風変わりな新谷という客に出会い、女として始めてセックスの喜びを感じてしまう……。

 『ひまわり』『閉じる日』の行定勲監督最新作。主人公ミヤコを演じるのは『ひまわり』に出演していた麻生久美子。新谷を演じているのは『閉じる日』にも出ていた永瀬正敏。サキコを演じているのは『月光の囁き』のつぐみ。物語はこの3人の人物を中心に進行していく。ミヤコの客やサキコの義母などがちらりと顔を出すこともあるが、それはほんの脇役に過ぎない。

 主人公たち3人には「金魚」のイメージが重ね合わされている。それも健康な金魚ではない。せまい水槽や金魚鉢の中で窒息寸前になって、水面近くで大きく息をあえいでいる金魚だ。喉にウナギの骨が刺さったと言って、口を開けたり閉じたりしているミヤコの姿は、酸欠金魚の形態模写のように見える。外部から遮断されたミヤコとサキコの部屋は小さな水槽。部屋の中には金魚の絵が飾ってある。映画の途中からは、本物の金魚も登場する。しかもこの登場人物の数と同じ3匹だ。適当な水槽がないからという理由で、部屋にあったジューサーミキサーの中に放たれる3匹の金魚。しかしそこはあまりにも小さな空間で、しかも水底には危険なミキサーの羽根が息を潜めている。映画は冒頭からミヤコたちの部屋が「金魚鉢」であることを示しているのだが、この金魚が登場するシーンから、象徴的な空間のスケールは「アパートの一室」というサイズから「ジューサーミキサー」へと小さく凝縮していく。それに合わせて、主人公たち3人のドラマも凝縮され煮詰まっていくのだ。

 永瀬正敏は『五条霊戦記//GOJOE』『PARTY7』『けものがれ、俺らの猿と』など役柄と本人のキャラクターがしっくりしない映画が続いていたのだが、今回の新谷役はなかなかいい感じだ。新谷は本名不明。住所も不明。職業も不明。私生活の一切がわからないという謎の男だ。しかしそんな奇妙な人物を永瀬正敏が演じると、「この人なら安心」「この人なら大丈夫」という地に足のついた安定感を感じさせてくれる。この人物が、ミヤコとサキコを含めた三角関係の軸になっていく。弁当屋の前で「新谷さん」と呼びかけられてサッと手を挙げる動作なんて、永瀬正敏でなければ様になるまい。演技面では、つぐみも今回の映画では新境地を開いていると思う。それに対して、麻生久美子はちょっと弱いかな。

2001年8月中旬公開予定 テアトル新宿(レイト)
配給・問い合わせ:スローラーナー
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