誘拐犯

2001/04/24 徳間ホール
ベニチオ・デル・トロとライアン・フィリップ主演の犯罪映画。
手に汗握るサスペンスとアクション。これは面白い。by K. Hattori


 『トラフィック』で今年のアカデミー賞助演男優賞を受賞した、ベニチオ・デル・トロ(本当はベニシオと発音するらしい)の主演映画。先日友人と飲んでいて、「本当はライアン・フィリップ主演の映画なのに、デル・トロがオスカーを取ったから無理矢理彼の主演映画という売りにしたんじゃないのかな」なんて話してたんですが、いざ映画を観たらこれは看板に偽りのないデル・トロ主演映画でした。もっともライアン・フィリップも相棒役なので、主役がふたりいる映画なんですけどね。あるいはジュリエット・ルイスも主演みたいなものかな。ブライアン・シンガー監督の『パブリック・アクセス』『ユージュアル・サスペクツ』で脚本を書いていたクリストファー・マックァリーの初監督作品で、当然脚本も本人が書いている。大作揃いの春から夏の映画興行の中でまったくのノーマーク作品だけれど、これはものすごく面白い。背筋がゾクゾクする犯罪映画です。

 主人公はロングボーとパーカーという若いちんぴらコンビ。彼らは自分たちが生きていくためなら、法律もモラルも屁とも思わない人間。盗みだろうが脅迫だろうが人殺しだろうが、必要となれば躊躇することなくやってのける。ある日ふたりはたまたま立ち寄った病院で、若い代理母が出産の報酬として莫大な金を受け取るという情報を聞きつける。彼女には少数の護衛がついている。この妊婦を誘拐すれば、胎児の父親は多額の身代金を払うに違いない。ふたりは子供の父親が誰かも知らずに、臨月のロビンを誘拐する。だが子供の父親チダックは、裏社会にも顔の利く危険な男だった。ロングボーとパーカーは、チダックの刺客に追われることになる。

 主人公ふたりは人殺しにも良心の呵責を感じない正真正銘の悪党だが、映画に登場する連中は全員が多かれ少なかれ腹に一物ある悪党なので、観客は直球勝負で一発逆転の誘拐事件を仕込む主役ふたりのストレートさに好感を持つはず。映画は前半から中盤まで暴力描写を切りつめてアクションのカタルシスを抑制し、終盤は銃弾が雨あられと飛び交う大銃撃戦に突入する。この緩急の変化がじつに気持ちいい。前半にも銃撃戦はあるのだが、その実態を観客から伏せて銃声だけを聞かせたりしている。これは後半の銃撃戦をより効果的に見せようとする工夫だろう。暴力シーンも序盤はコミカルであったり、死体がゴロンと転がっているだけという乾いたタッチのものだったりして、生暖かい血しぶきが飛び散る凄惨さはない。ところが映画の後半は血糊の大盤振る舞い。人間から吹き出る血のぬらぬらした質感と、メキシコの乾いた風景の対比もうまく計算されている。

 映画の中には、若い世代と老人たちの対立という構図も見える。老練な殺し屋を演じるジェームズ・カーンが素晴らしい。少しぎこちない身体の動きで、彼が数々の修羅場をくぐってきたことがわかる。精悍な黒人護衛を演じたテイ・ディッグス、老殺し屋アブナー役のジェフリー・ルイスなど脇役ひとりひとりも光ってます。

(原題:The Way of the Gun)

2001年6月9日公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:アスミック・エース
ホームページ:http://www.asmik-ace.com/Gun/


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