シリアル・ラヴァー

2001/03/22 TCC試写室
ミシェル・ラロック主演の殺人ブラック・コメディ。
映像凝りまくりでかなり笑える。by K. Hattori


 '98年のフランス映画祭横浜で一度観ている映画だが、この春に日本で劇場公開されることになったので改めて試写で観直すことにした。ミシェル・ラロック扮するクレールは、ミステリ小説の出版社に勤める美人編集者。今まで悠々自適に贅沢な独身生活を送ってきた彼女だったが、35歳の誕生日を明日に控えて人生に大きな区切りをつけようとしていた。過去につき合ってきた4人の男たちを一度に晩餐に招き、誕生日の朝にはその内のひとりと結婚しようというのだ。男たちは全員が揃いも揃ってクレールと結婚する気でいる。はたして彼女は4人の中の誰を生涯の伴侶に選ぶのか? だが幸せな結婚を探すための晩餐会は、ふとしたきっかけから血も凍る惨劇へと変わる。招かれた男たち全員が、クレールのアパートの中で無惨な死を迎えることになるのだ……。

 偶然に偶然が積み重なって男たちが次々見事に死んで行くところは、あらかじめ結果を知っていても面白く観られた。この映画の感心なところは、男たちの死にっぷりをすべて異なったパターンで見せて行くところ。どれも殺意のまったくない不幸な事故のようなものであり、しかし同時にヒロインが男たちの死に大きな責任と良心の呵責を感じるという微妙な境界線をうまく4つのパターンに描き分けている。登場人物が最初に5人登場し、ひとりずつ死んで最後にヒロインが残るわけだが、それだけだと映画の規模はどんどん小さくなってしまう。この映画では脱獄犯を追う強面の刑事を物語にからませて、クレールの部屋と外部の世界に接点を作っている。男たちの数が減っていっても、時々外部の人間が部屋を出入りすることで、物語がしぼんでしまうことを防ぐことができる。またこの刑事の存在によって、クレールが事件の真相を話しあぐねる展開に説得力が生み出すし、事件の真相がいつ発覚するかというスリルも増幅される。

 全体によく考えてエピソードが構成されており、監督・脚本のジェームズ・ユットはかなりの切れ者らしいことがわかる。ただし映画後半のパーティーシーンは、もっと強烈なハチャメチャを見せてほしかった。それまでの薄暗い密室劇の雰囲気をすべて吹き飛ばし、「さっきまで見ていた事件はすべて主人公の夢だったのか?」と観客が疑うぐらいにタッチを変えてしまうと、その後に客が引き払った後との落差も強調されたと思う。このパーティーの場面が、ちょっと長くてだれるように感じるのです。前半はゆったりしたテンポでフィルムノワールのパロディをやっていたんだから、ここは一気にテンポを上げてもよかったと思う。その方が妹のキャラクターも生きてくるし、ヒロインと刑事の関係も生きる。

 映像がかなり凝っていて、それだけで笑えるシーンも多い。カメラが大きく見開かれたヒロインの左目に寄り、そのまま彼女の頭の中にある幻想や妄想を映し出して、今度は右目から抜けていくなんて、ずいぶん無茶なカメラワークだけど笑っちゃう。すっぱり裁ち落としたような結末のオチも、じつに洒落ています。

(原題:SERIAL LOVER)

2001年4月下旬公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:クレストインターナショナル
公式HP:http://www.crest-inter.co.jp


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