ベティ・サイズモア

2001/03/09 UIP試写室
夫を殺されたウェイトレスが昼メロの世界に現実逃避。
主演はレニー・ゼルウィガー。by K. Hattori


 タイトルの『ベティ・サイズモア』というのは、この映画のヒロインの名前。アメリカ映画には主人公の名前をタイトルにした映画が多いのだが、これは「ドン・キホーテ」や「ロビンソン・クルーソー」以来の文学的伝統なんだそうです。ところが日本ではこうした人名タイトルにあまり馴染みがない。そこで映画では『Dolores Claiborne』は『黙秘』になり、『Jerry Maguire』が『ザ・エージェント』になりする。しかし『ベティ・サイズモア』は主人公のフルネームをそのまま邦題にしている。しかもこの映画の原題は『Nurse Bettty(看護婦のベティ)』だから、フルネームにしたのは日本のオリジナルタイトル。なんとも不思議な事例です。ちょっとバタ臭いタイトルにしたかったのかもしれないけど……。

 主人公のベティはカンザスの田舎町にある食堂でウェイトレスをしている平凡な女。中古車ディーラーの夫とは関係がうまくいっておらず、彼女は不幸な家庭生活から逃避するように病院を舞台にした昼メロに夢中になっている。だがこの程度の不幸を背負った女なんて、世の中にはごまんといる。問題は彼女の夫が麻薬取引をめぐるトラブルを引き起こし、ベティの目の前で殺し屋に惨殺されてしまったことだ。目の前で起きた凄惨な殺人事件にパニックを起こしたベティは、憧れのテレビドラマの世界を現実だと信じることで心理的な逃避をはかる。夫から離れてロスの病院で働く昔の恋人のもとに行こうと決意を決めた彼女は、トランクに麻薬が詰まった車を運転して一路ロサンゼルスを目指す。彼女の夫を殺した殺し屋たちも、それを追ってロスへ!

 観客の予想を小気味よく裏切っていくストーリー展開の妙技に、まずは感心してしまう。映画の筋立てなんて無限にパターンがあるわけではなく、大概はどこかで何らかのパターンを踏襲することになる。映画を途中まで観ているとおおむねいくつかの結末が予想できて、そのどれかに着地するのが常だ。しかしこの映画は、そんな観客の期待や予想を次々にはぐらかしていく。「え、そうなるの?」「あれ、こうなっちゃうんだ!」と驚かせ、「そういう展開ならきっとこんな結末になるだろう」という観客の思い込みをさらに何度も裏切っていく。ただしこの裏切りは大きなものではない。「どひゃ〜、これは参りました!」という青天の霹靂みたいな事件は起こらない。物語が物語の流れに無理せず従いながら、それでいてどんどん脇道に逸れていく面白さ。

 主人公ベティを演じているのは、『ザ・エージェント』『ふたりの男とひとりの女』のレニー・ゼルウィガー。それを追いかける殺し屋コンビに、モーガン・フリーマンとクリス・ロック。このコンビがなかなか面白い。この映画には残酷なシーンもあるしハラハラさせるような場面もあるのだが、それでも映画が「恐いもの」にならずに済んでいるのはこのふたりの持ち味によるものだと思う。監督のニール・ラビュートは過去に2本の監督作があるが、今回の映画が日本初登場だという。

(原題:Nurse Bettty)

2001年5月公開予定 シャンテ・シネ
配給:UIP
ホームページ:http://www.uipjapan.com/


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