青の瞬間とき

2001/03/07 映倫試写室
高校受験を控えた中学生と車椅子の少女の交流。
きわめて真っ当で正直な青春映画。by K. Hattori


 島根県西ノ島。高校受験を控えた達夫は、長く学校に登校していない賢一と馬が合う親友同士。海岸の廃小屋を秘密のたまり場にして、だらだらと話をしたり、漫画を読んだりして時間を過ごす仲だ。不良気取りの賢一は、島を出てピンサロのスカウトをしている永田を慕って、彼が島に戻ってくるとその腰巾着のようにくっついて回る。達夫は賢一に友情を感じながらも、親分風をふかす永田が嫌でたまらないのだ……。

 今いる場所から出ていきたい。今ある自分とは別の自分に変わりたい。そのために早く大人になりたいと願う、田舎の中学生の物語。僕も田舎の中学生だったので、この映画に登場する人物像にはすぐに感情移入できた。この映画の中では、主人公の達夫が自分の住む環境に適応できない少年として描かれている。彼は自分の住む小さな島が嫌いで、東京の高校への進学を望んでいる。東京に行って何がしたいという明確な目的などない。進学は家や島を離れるための口実に過ぎない。登校拒否中の賢一も、やはり同じように島の暮らしに適応できない少年のひとりだ。彼は周囲に適応できない部分を持て余して、周囲に悪ぶって見せる。でも特別腕っ節が強いわけでもなければ、度胸があるわけでもない。賢一が不良ぶっているのは彼の弱さが原因だろう。彼は島の暮らしに適応できない居心地の悪さを感じているくせに、積極的に島から出ていこうという気にもなれずにいる。島から出ていった永田という男も、やはりそれと同じような弱い男。中学生の前で札ビラを切って自分を誇示しようとしたり、腕力でかないそうもないと鉄パイプを持ち出したりする。島の人間を軽蔑しながら、それでも年に何度も島に戻って、町でちっぽけな成功を収めた自分を自慢したいのだ。

 今いる場所から逃れようと行動する少年が達夫だとすれば、今いる場所に違和感を感じながらも積極的に行動する勇気のない少年が賢一や永田だ。そして映画の中には、今いる場所から逃れようにも、逃れることのできない運命を背負った少女が登場する。幼い頃の事故がもとで、車椅子の生活をしている加奈恵だ。彼女はいつも2階の自分の部屋の窓から、ぼんやりと外をながめていることしかできない。下半身不随の彼女は、自分ひとりの力で近くに散歩に出かけることも許されないのだ。体も心も大きく成長してゆく思春期という時間の中で、車椅子に縛り付けられたまま年を重ねていくことに苛立ちを感じる加奈恵……。この映画は島を巣立っていく達夫と、島に残らざるを得ない加奈恵の交流を軸に、15歳という不思議な時間を丁寧に切り取ることに成功していると思う。

 新人監督である草野陽花のデビュー作。賢一役の伊藤淳史は『独立少年合唱団』にも主演しているが、達夫役の郭智博や加奈恵役の柳沢真理亜は映画ファンにとって馴染みのない顔。しかしこうした若手を、要所に配置されたベテランがうまくサポートしている。加奈恵の父を演じた岸辺一徳や、達夫の父を演じた世良公則などだ。このあたりは、結構手堅い映画になっている。

2001年5月19日公開予定 中野武蔵野ホール
2001年6月9日公開予定 松江SATY東宝
2001年6月30日公開予定 名古屋シネマスコーレ
他 全国ロードショー
オフィシャル・ホームページ:http://www06.u-page.so-net.ne.jp/kc4/pal-ep/aonotokifl.html


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