GALLIVANT
〜ガリバント〜

2001/02/28 シネカノン試写室
監督が娘と祖母を連れてグレートブリテン島一周の旅へ。
風景や人々を優しく描く映像エッセイ。by K. Hattori


 アンドリュー・コッティングというイギリスの映画監督が、7歳の娘エデンと85歳になる祖母グラディスを連れて、グレートブリテン島を一周する旅に出る。何か目的があっての旅ではない。旅で出会う人々や、旅の途中で起きた些細な出来事をカメラに記録し、ただひたすらぐるりと島を一周するだけの旅。思いがけない発見や、意外な面白さがきっと旅の中で見つかるに違いないという、まったく根拠のない期待感だけが頼みの綱だ。キャンピングカーに監督と娘と祖母、それに録音技師を乗せてた小さなキャラバンが、イギリス海岸線を行く。

 上映時間1時間40分。カテゴリーとしてはドキュメンタリーの一種だと思うが、「記録映画」というよりカメラを使った「映像エッセイ」とでも言うべき作品だと思う。撮影期間は3ヶ月、録音されたテープは30時間、撮影されたフィルムが20時間分。それを6ヶ月かけて編集したのだという。単に撮影したフィルムを時系列につなぐだけではなく、フィルムのコマ数をいじったり、別に用意された素材をつなげたりしてある。この映画はフィクションではないが、完全なノンフィクションでもない。撮影中に起きたさまざまな出来事が監督の内部で熟成され、現実とは別の形で再構成されているのだ。素材はすべて現実の風景や出来事だが、それを取捨選択して観客に提示する段階で、普通のドキュメンタリー以上に監督の思い入れや感情が込められている。

 こうした主観的な視点は、普通のドキュメンタリー映画ならなるべく排除しようとするものだと思う。もちろん作り手側はその映画を通して何かを訴えるのだから、編集段階で作り手の主観が映画の中に入り込む。しかし作り手はそこで必死になって「客観性」を保とうと努力するし、映画を観ている側に自分たちの作り出したバイアスを悟られまいとする。しかしこの『GALLIVANT〜ガリバント〜』はそういう配慮をしない。撮影カメラが写し出す映像は、撮影者である監督本人と一緒になって泣いたり笑ったり、面白がったり驚いたりしているかのようだ。客観的な第三者の目ではなく、撮影対象との関係性が見えてくるような温かい視線……。それがこの映画の最大の魅力であり、この映画に他のドキュメンタリー映画と違うユニークさを感じさせる部分だと思う。

 明確なストーリーというのはない。監督が娘と祖母と一緒に旅をするという、ただそれだけのこと。その中にいろいろなエピソードが散りばめられているが、エピソードはそれぞれ独立していて相互の関係はない。船着き場で出会った老夫婦の話と、名物トイレの管理人の間には、何らかの関連性を見つけようとしても無駄というものだ。この映画をまとめているのは、なんでも好奇心旺盛にのぞき込む監督自身のキャラクターと、そんな自分自身を少し恥ずかしそうに観客に提示する監督自身の気持ちのせめぎ合い。カメラの前でさんざん馬鹿なことをやりながら、編集段階で少し照れくさそうにしている監督の顔が見えてくる作品。これに結構好感度大なのだ。

(原題:GALLIVANT)

2001年今5月公開予定 ユーロスペース
配給:グループ現代


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