プルーフ・オブ・ライフ

2001/02/13 ワーナー試写室
南米のアメリカ人誘拐グループと人質交渉人の駆け引き。
主演はメグ・ライアンとラッセル・クロウ。by K. Hattori


 メグ・ライアンとラッセル・クロウが主演のサスペンス映画。南米の小国で夫をゲリラに誘拐された妻をライアンが演じ、利益や採算度外視でその救出のために働くプロの交渉専門家をクロウが演じている。撮影中に主演のふたりが仲良くなってしまい、ハリウッドでは珍しいオシドリ夫婦といわれていたメグ・ライアンが夫のデニス・クエイドと別れてしまったことが話題になった。映画の売りとしては、依頼人である人妻に恋してしまった交渉人の苦悩みたいなものにスポットを当てているようだが、実際の映画を観るとそうした要素はごく小さなもの。主人公たちの間に特別な感情が生まれるのは確かだが、それは長期間に渡って犯人との駆け引きや交渉に協力し合った者の同志愛のようなものではなかろうか。もちろんそこに、男女の恋愛感情もからんでくるわけだけれど、そればかりではないだろう。人質救出に向かうクロウとそれを見送るライアンがキスするシーンは、恋愛感情という甘さとは別の厳しさが感じられた。

 2時間15分もある長い映画だが、人間の心理的葛藤のドラマとしては少し弱いような気もする。誘拐されている期間は4ヶ月だが、その時間が生み出す人間の心の動きや気持ちの変化は、もっと紆余曲折があるのではないだろうか。誘拐直後のパニックから、交渉ごとの一喜一憂、感情の極端な浮き沈み、誘拐という異常事態への慣れなど、もっとドラマに盛り込んでもいいエピソードは多かったかもしれない。交渉人のテリーが一度帰国した後になぜ戻ってきたのか、その動機付けも少し弱い。観客は「戻ってきてくれ!」と思っているから、実際に戻ってきてくれたときは「そうこなくっちゃ!」と心の中で喝采を送る。でもそれだけに頼るのはちょっとね。

 しかしこの映画、つまらないかというとそんなことはない。身代金目的の人質事件が世界中で日常茶飯に起きているという現実や、誘拐対策の保険、プロの交渉人の存在といった事柄は今まであまり映画に登場しなかったから新鮮だ。発展途上国で外国企業の駐在員や技術者が誘拐され、企業宛に多額の身代金が要求される事件というのはものすごく多い。日本でもフィリピンで起きた「若王子事件」を覚えている人は多いと思うが、それ以外にも膨大な数の日本人誘拐事件が起きている。誘拐されるのが大人であること、事件現場が海外で取材が制限されること、事件解決までしばしば長い時間がかかること、身代金を払えばまず間違いなく人質が釈放されることなどから、日本では報道の扱いが小さいのだが、この映画を観ると「他人事じゃないな」と思ってしまう。

 この映画はドラマとしてより、世界中で頻発する身代金ビジネスとしての誘拐の実態や、それを解決するために東奔西走する交渉人たちの実態を丁寧に取材している点が面白いのだと思う。たぶん海外に進出している日本企業の多くも、この映画に登場するような保険会社と契約しているのでしょう。この映画の日本版を作ると、かなり面白いものができるような気がする。

(原題:PROOF OF LIFE)

2001年3月17日公開予定 丸の内ピカデリー1 全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース


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