SELF AND OTHERS

2001/02/06 映画美学校試写室
'83年に36歳で死んだ写真家・牛腸茂雄の生涯と作品。
この写真家は僕の学校の先輩だった。by K. Hattori


 『阿賀に生きる』『まひるのほし』の佐藤真監督が、'83年に36歳で亡くなった写真家・牛腸(ごちょう)茂雄の作品と人生をドキュメンタリー映画化したもの。僕は牛腸茂雄という写真家をまったく知らなかったのだが、生まれは昭和21年だから、僕よりちょうど20歳年上。生きていれば今年で55歳。ちなみに彼は僕にとって、渋谷にあるデザイン専門学校・桑沢デザイン研究所の大先輩ということになる。同窓会名簿の《I42L3写真》の項目には、確かに「牛腸茂雄」という名前がある。(ちなみに僕は《I61L2B》だ。)

 この映画は、牛腸茂雄が残した写真集、映画フィルム、絵画作品を中心に、牛腸茂雄本人が残した手紙、録音テープ、関係者のインタビュー、追加撮影された現在の町の様子、そして音楽で構成されている。映画は牛腸の撮影した写真から始まり、次には無人となっている彼の部屋の様子が写し出される。この映画に登場する人間は、牛腸作品の被写体としての人物像だけだ。追加撮影された部分に、人影はほとんど見えない。牛腸が撮影したポートレートは登場しても、そのモデルになった人たちの現在の姿は出てこない。ただインタビューに答える声が音声として流れるだけだ。上映時間は53分。ナレーターとして牛腸茂雄の手紙を朗読しているのは俳優の西島秀俊。かなり抑制した声で手紙を読み上げる。そして映画の中から突出して響いてくるのが、録音テープに残されていた牛腸茂雄本人の声!

 牛腸茂雄は知る人ぞしる写真家なのだろうし、今後もそのポジションに変化はないと思う。一流の写真家になりたいと願い、その志半ばにして病に倒れた牛腸茂雄。この映画はそんな彼の「生の痕跡」を、残された作品によっておあぶり出そうとする。この映画が描き出すのは、ひとりのちっぽけな人間が、歴史の中に残したひっかきキズのようなものだ。それはこの映画に登場する、牛腸の写真作品も同じかもしれない。人生の中の一瞬を写真に切り取られ、写真集という形で残される人々。

 牛腸茂雄を「夭折の天才写真家」として描くことは簡単だろうし、死後にその才能が評価されてよかったねと映画を締めくくることも容易だったはず。しかしこの映画はそんな生やさしいことはしない。この映画で描かれているのは、幼い頃に重病を患い医者から死を宣告された青年が、自分自身の力を精一杯振り絞って生き抜こうとした悪戦苦闘ぶりだ。映画に登場する牛腸のセルフポートレイトは、カメラのこちら側にいる観客を挑発的ににらみつけている。この映画からは牛腸茂雄の生に対する執着が、牛腸茂雄のこの世に対する怨念が伝わってくる。自分の写真に絶対の自信を持ち、その写真が認められにくい世間に対する呪詛の言葉が聞こえてくる。

 この映画は牛腸茂雄の発したメッセージを、現代の観客の前に突きつける。「昔こういう人がいました」という映画ではない。この映画の中に登場する牛腸茂雄は、映画の中に今まさに生きているのだ。

2001年4月公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース 宣伝:シグロ


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