隣のヒットマン

2001/01/31 FOX試写室
ブルース・ウィリスが引退した殺し屋を演じるコメディ映画。
とぼけた味があってなかなか面白い。by K. Hattori


 モントリオールで歯科医を開業しているオズは、義父が残した莫大な借金と、浪費家で性悪の妻ソフィ、妻と結託して自分から金を搾り取ることしか考えていない義母との生活に疲れ果てていた。そんな時、隣の家に越してきたひとりの男。彼は数年前に新聞をにぎわせたマフィアの殺し屋ジミー・チュデスキだった。彼は司法取引に応じてシカゴの組織を裏切り、ごく短期で刑務所から出所してきていたのだ。だが彼の首には、組織が高額の賞金をかけている。性悪女のソフィはこの事実を知るや、組織に情報を送ってその見返りに大金をせしめようとオズをけしかける。だがオズが渋々シカゴに出かけているすきに、ソフィはチュデスキにこの事実を教えて夫殺しを提案する。オズには多額の保険金がかけてあるのだ。シカゴで早速組織の男に捕らえられたオズは、シカゴに残れば組織に殺され、モントリオールに戻ればチュデスキに狙われるという状態。これじゃ前門の虎後門の狼だ。

 性悪妻にいいように振り回されるお人好しのオズを演じるのは、「フレンズ」出身のマシュー・ペリー。胴長短足で顔も締まりがないという情けない風体だったオズが、危機また危機の試練を乗り越えてたくましく変身する様子は見もの。殺し屋チュデスキを演じるのはブルース・ウィリス。序盤のとらえどころがなく不気味な様子は「ミッキー・ロークあたりの方がよかったのでは」とも思ったが、中盤で彼に美人のアシスタントが付いたあたりからは、役柄がウィリスのキャラにカチリとはまってじつにいい感じだ。性悪のソフィを演じたのはロザンナ・アークエット。これはまさにはまり役でした。最近この女優さんは、この手のクソ女役が多いけど、本人もそれを楽しんでいるフシがあるなぁ。

 監督は『ナン・オン・ザ・ラン/走れ尼さん』『いとこのビニー』のジョナサン・リン。映画のテンポは結構ヌルくて今風のスピード感がないのだけれど、このスローペースに観客側の身体がうまく馴染んでくると、そこからは笑いが止まらなくなってしまう。死体がゴロゴロ転がるような話なので、この映画はリアリズムで演出してもグロテスクなだけだし、登場するキャラクターがかなり類型的なので、テンポを上げると浮ついたマンガになってしまう。これはスローペースが正解。

 リン監督は『いとこのビニー』でマリサ・トメイにアカデミーの助演女優賞を取らせた人だけれど、この映画でも女優の使い方がじつにうまい。アークエットの悪女ぶりも壮絶だけれど、チュデスキの妻を演じたナターシャ・ヘンストリッジと、オズの歯科医院の助手を演じたアマンダ・ピートの存在が格別です。ヘンストリッジは今までずっと『スピーシーズ/種の起源』の印象が抜けなかった女優さんだけれど、この映画で一皮むけたと思う。一糸まとわぬ姿で暴れ回るアマンダ・ピートの元気さも最高。ヘンストリッジとピートが銀行でサシで話をするシーンは、この映画の中でもっともドキドキさせる名場面だったと思う。最後に流れるガーシュインも最高。

(原題:The Whole Nine Yards)

2001年4月上旬公開予定 渋谷東急・全国松竹東急系
配給:20世紀フォックス


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