イディオッツ

2001/01/26 TCC試写室
ラース・フォン・トリアー監督のドグマ95参加作品。
ドストエフスキーとはまったく無関係。by K. Hattori


 『セレブレーション』と『MIFUNE/ミフネ』の間に作られたドグマ95の第2弾作品、しかも『奇跡の海』のラース・フォン・トリアー監督作品であるにもかかわらず、どういうわけか今まで日本で劇場公開されることのなかった作品が、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の公開を機についに劇場に登場する。プレス資料やチラシには「幻の傑作」だの「封印を解かれる」だのという言葉が踊っているが、映画を観ればこれがなぜ今まで日本で公開されなかったのかが一目瞭然。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でカンヌのパルムドールを受賞した監督の作品だという言い訳がなければ、この映画は永久に日本で公開されなかったかもしれない。

 この映画に登場するのは、「知的障害者や精神障害者を装う健常者のサークル」という、かなり風変わりなもの。彼らは町はずれの住宅地にある大きな屋敷で共同生活し、数人ずつのグループに分かれて町に繰り出していく。彼らは障害者と引率者(施設の職員やボランティア)に扮し、レストランで無銭飲食し、工場見学し、障害者向けの駐車スペースに車を停め、パブに入って刺青の男たちをからかい、家を見学に来た人たちを追っ払う。世間にある「障害者は気の毒な人々だから大切に守らなければならない」「障害者を避けようとするのは差別である」という暗黙の了解があるから、誰も彼らの傍若無人な振る舞いをとがめない。彼らは障害者を前に戸惑った表情を見せる人々の姿を見て、ゲラゲラ笑う。悪ふざけにしては、ちょっと趣味が悪すぎる。

 しかしこの映画に描かれている「障害者を装う」という行為は、単なる悪ふざけだけでは済まない凄味を持っている。障害者を演じることが、グループのメンバーたちにとっては大きな癒しや慰めになっているのだ。映画を観る者たちをこのグループに誘うのは、町のレストランで偶然彼らに出会ったカレンという中年女性。彼女も含めてこの映画に登場する偽装障害者グループのメンバーたちは、それまで属していた自分の家庭や仕事に不適応を起こしている。また彼らは、実際に障害を持つ人々を細かく監察し、それを演技によって“再現”するのではなく、自分の中にある“愚かさ”を引き出すことでものの見事に障害者に化けてしまう。人間が誰しも内面に秘めている“愚かさ”がこの映画のテーマなのかもしれない。ただし、それがあまりうまく表現されているとも思えないのだけれど……。

 当然だがドグマの手法をかなり意識している作品で、一種のドキュメンタリー映画に近い臨場感がある。撮影はすべてビデオ。画面にはしばしばマイクやカメラマンの姿が映り込み、登場人物たちのインタビューシーンが随所に挿入される。彼らが語っているのはカレンのことと、グループが消滅して今は存在しないこと。いったいグループに何が起きたのか? きっととんでもない事件が起きたに違いないと、さんざん観客を期待させるわりには、映画のオチに釈然としなかった。

(原題:THE IDIOTS)

2001年3月23日公開予定 恵比寿ガーデンシネマ(レイトショー)
配給:スローラーナー


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