不確かなメロディー

2001/01/23 松竹試写室
忌野清志郎の全国ツアーを追跡したドキュメンタリー映画。
ビデオ撮影の臨場感がこの映画にピッタリ。by K. Hattori


 2000年5月。この年にデビュー30周年を迎えた忌野清志郎が、自分のバンド“ラフィータフィー”を率いてマイクロバスに乗り込み、全国15ヶ所のライブハウスを回るツアーを行った。この映画はそのツアーに密着同行してライブハウスでの演奏シーンをたっぷり紹介すると同時に、バンドメンバーたちのステージ外での様子や、それぞれの音楽に対する思いなどをインタビューしたドキュメンタリー映画だ。中心にいるのはもちろん忌野清志郎であり、彼本人がデビューから今日までの自分と音楽との関わりについて語っている。これといって大げさに銘打っているわけではないが、これは清志郎の歌手生活30周年記念映画という面もあるのだ。

 忌野清志郎というミュージシャンに対するイメージは、人によってずいぶんと違うと思う。僕は「雨上がりの夜空に」や「トランジスタ・ラジオ」などでRCサクセションが爆発的に売れていた頃や、坂本龍一と一緒に「い・け・な・いルージュマジック」をヒットさせた頃の印象が強烈に残っている。'88年に反核をテーマにしたという理由でアルバム『COVERS』が発売中止になった事件や、覆面バンド“THE TIMERS”のゲリラ的な活動も印象的だった。でも僕はそこまで。その後RCは活動停止し、清志郎は現在に至っているらしい。

 この映画を観てびっくりしたのは、清志郎のライブに集まる観客たちがみんな揃いも揃って若いこと。30年も音楽活動をしているのだから、昔からのファンというのもいるはずなのに、ライブハウスには若い観客が圧倒的に多い。映画の中でバンドメンバーも語っていたけれど、清志郎というのはひたすら前だけを見てまったく後ろを振り向かないのだ。RC時代からのファンのために、昔の曲もライブで演奏しますなんてサービス精神はない。どんどんスタイルを変えていく。どんどん新しいことにチャレンジしていく。「RCを再結成してくんないかなぁ」と考える30代以上のファンなんて、今の清志郎は眼中にないらしい。とにかく今この時、自分にとって一番歌いたい歌を歌いたいように歌う。その結果古いファンが自分から離れていっても、まったく気にしない。その分、若いファンが新たに清志郎に熱狂するようになる。

 「プロのミュージシャンでもほとんどは流行の音楽に迎合したり、時流の音楽をただなぞっているだけ。自分がやりたい音楽はこれだと言い切れる人は、ほとんどいないんじゃないか」と語ってしまえる清志郎という人は、やっぱりすごいんだと思う。こういう言葉をさりげなく拾ってこれる映画というのも、ちょっとすごいけどね。この映画はビデオ撮影されているのだけれど、それが、マイクロバスでライブハウスを回るというツアーの規模にぴったりと合っているように思う。武道館ライブをビデオで撮影してキネコしたらショボイ映像にしかならないかもしれないけれど、この映画はこれでいい。武田真治がすごく真面目に音楽活動している様子は、映画ファンにとっても貴重な記録映像だったりしますけどね……。

2001年3月10日公開予定 シネセゾン渋谷・テアトル池袋 以下順次全国
配給:アースライズ 宣伝・問い合わせ:ムービーテレビジョン


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