女帝

2000/12/26 松竹試写室
夜の世界で頂点を目指すヒロインのサクセス・ストーリー。
話も役者も芝居もまずまず。でも絵がダメ。by K. Hattori


 夜の銀座で働くホステスたちの世界を、美貌と才覚だけで頂点まで上り詰めていくヒロインを描いたサクセス・ストーリー。主演は小沢真珠。監督は『一生遊んで暮らしたい』の金澤克次。原作は「週刊漫画TIMES」に連載中の人気コミック(作:倉科遼/画:和気一作)で、ヒロインの同業者であるホステスたちに圧倒的な人気があるというのだけれど、あいにくと僕はこの雑誌もコミックも知らなかった。原作がB級コミック誌の連載漫画で、公開劇場が銀座シネパトスとくれば、これはVシネレベルの映画に決まっている。原作者のたっての希望で今回は劇場映画として公開されるそうですが、作品の枠組みがVシネレベルであることは否めない。しかしこの映画、お話や芝居はなかなかよくできています。

 スナックを経営していた母親の死と店舗跡地の再開発で、故郷熊本を追われたヒロインの彩香。強引な立ち退き要求と中傷で、母子を屈辱的な目に遭わせた男たちに復讐するため、綾花は権力を握る男たちより上に立つことを誓う。「待合い政治」という言葉に象徴されるように、日本の政官財界を影から支えているのは料亭や高級クラブとそこで働く女たちだ。金も後ろ盾も持たない女がたったひとりで権力に近づくには、高級ホステスになるのが一番の近道。彩香はその第一歩として、大阪十三のスナックでホステスとして働き始める。

 ヒロインの生い立ちや母の死を巡る事件が、彼女の行動力の源になっているという設定はかなりクサイ。だが「復讐」という動機が持つ古風な泥臭さは、金や権力になびかないヒロインの行動理由として大きな説得力を持つのだ。ヒロインを地方都市出身者に設定し、大阪で修行し、東京に打って出るという流れにしてあるのもいい。要所で飛び出すぎこちない熊本弁は、藤純子の『緋牡丹博徒』シリーズを連想させて、男社会に女の細腕で立ち向かうヒロインの健気さと美しさを際だたせている。若いヤクザ直人を演じる高知東生が持つ不良っぽさとある種の安っぽやいかがわしさも、この映画にはぴったりとはまっているのではないだろうか。

 脇役たちがいい味を出している。序盤の十三のスナックに登場するのは、宮川大助・花子の夫婦漫才コンビ。会話はぴったり息が合っていて、店内を家庭的な雰囲気で包み込む。中盤から登場する“ミナミの妖怪”を演じるのはミッキーカーチス。この人は軽い役でも飄々とした魅力のある人ですが、その人があえて抑えた渋い芝居をするから不気味な“妖怪”に見えてくる。彩香を助ける大物ヤクザを演じているのは菅田俊。渋い!

 話も面白くて役者もいい芝居をしているのですが、この映画はどうしようもなく貧乏くさい。もっとお金をかけて、ゴージャスな絵作りをしてほしかった。特に照明とカメラがいつも薄暗いのは致命的。贅沢な照明の中で絞って夜景を撮るのと、本当に暗いところで高感度フィルムを使うのとでは絵の艶が違います。夜景や室内の多い映画だけに、薄暗い画面はずっと気になりました。

2001年2月24日公開予定 銀座シネパトス
配給:ムービーテレビジョン


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