偶然の恋人

2000/12/25 ル・テアトル銀座
元恋人同士だったベン・アフレックとグウィネス・パルトロウが、
映画の中で熱い恋を再燃させる。う〜む。by K. Hattori


 他人のためによかれと思ってした行為が、相手に災いをもたらすことがある。日本語にも「恩が仇」という言葉があるくらいだから、こうしたケースは日常の中のありふれたものなのだ。誰だって似たような事例に出会ったことがあるはず。でもたいていは、「悪気があってやったわけではない」ということで許されてしまう。たとえ悪い結果になったとしても、それは運が悪かっただけだと、互いに納得してやり過ごすものだ。

 この映画の主人公バディは、天候不順で航空ダイヤが乱れ、多くの乗客たちが缶詰になっていた空港で、家族の待つ家に一刻も早く帰りたいと願う男に手持ちの航空券を譲った。それは純粋な好意だ。広告制作会社に勤めるバディは、大きな契約を結んだばかりで気分がいい。空港のバーで知り合った美女と、なんとなくいい雰囲気にもなっている。好意と打算と下心があったうえで、本来なら自分が使うはずだったチケットを譲ったバディは、その夜のニュースで、その飛行機が墜落したことを知った。間一髪で助かったという気持ちより、自分がチケットを譲った相手が死んでしまったという事実がバディを苦しめる。本来死ぬはずの自分が生き残り、死ぬはずのなかった男が自分の代わりに死んでしまった。バディは罪の意識にさいなまれ、酒に溺れるようになる。1年後、バディは死んだ男の残された家族がどんな生活をしているか様子を見ようとする。未亡人は慣れない仕事で、ずいぶんと苦労しているようだ。バディはせめてもの罪ほろぼしに、彼女を助けてやろうと考える。

 バディを演じているのはベン・アフレック。未亡人アビーを演じているのはグウィネス・パルトロウ。このふたり、かつては親密な交際が伝えられていた元恋人同士。そのふたりが映画の中で再び恋に落ちる役を演じるなんて、なんだかひどく不純な感じがしてしまう。郷ひろみと松田聖子がデュエット曲を歌うのと同じくらい、スキャンダラスの匂いがプンプンしてしまうのだ。

 この日の試写はフィルムのかけ間違いから、映写が途中でストップするというトラブルがあった。そのため主人公たちが出会って恋に落ちる肝心の部分が混乱し、素直に物語の中に入り込めなかった。しかしそうした部分を割り引いても、この映画はまずまず面白いものになっていると思う。特にグウィネス・パルトロウは上手い。さすがオスカー女優だ。死んだ夫を愛し続けながらも、おっかなびっくり新しい恋に踏み出して行くアビーの気持ちが、芝居の中でも巧みに表現されていると思う。それに比べると、ベン・アフレックの感情表現は少し大雑把すぎるような気がする。死んだ男への義理立てからアビーに手を差し伸べた彼が、どの時点で彼女に恋心を抱くようになったのか、そのポイントがいまひとつ明確でないように思うのだ。恋してはならない相手に恋してしまうという葛藤が、脚本の中にもあまり盛り込まれていないのだから、芝居にばかりそれを求めても仕方ないのかもしれないけれど……。思った以上に薄味の映画です。

(原題:BOUNCE)

2001年3月公開予定 渋谷東急他 全国松竹東急系
配給:アスミック・エース


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