天上の恋歌

2000/12/25 シネカノン試写室
香港の路地裏でチンピラめいた人生を送っている人々。
レオン・カーファイがビデオ屋のオヤジ役。by K. Hattori


 レオン・カーファイ主演の香港インディーズ映画。最近の香港映画界は、娯楽色を全面に出したメジャーな作品の他にこのようなインディーズ映画が撮られるようになっていて、内容的にバラエティに富んだものになっている。日本でも人気のあるフルーツ・チャン監督は『メイド・イン・ホンコン』以来ずっとインディーズで活躍しているし、ウォン・カーウァイ監督も『恋する惑星』以降は映画作りにインディーズ的な手法を取り入れている。低予算とか独立資本とか、インディーズを定義する条件はいろいろあるのだろうが、これらの監督の活躍によって、「非スタジオ的」な映画が多数登場する素地ができたのは確かだろう。香港映画の面白いところは、そうした非スタジオ的な作品にも、大スターが主演すること。こうした流れもウォン・カーウァイが作ったものだったりするから、彼はいろんな意味で香港映画界の革命児なんだろうなぁ。『花様年華』はヒットするかな。

 それはさておき『天上の恋歌』なのだ。レオン・カーファイが演じているのは、オンボロ雑居ビルの中でポルノビデオショップを細々と経営している中年男だ。彼は大きな中華料理屋でエレベーター係をしている女性と一緒に暮らしているが、街で見かけた若い娼婦に心を惹かれて声をかけたりする。物語はレオン演じる中年男ジエンを軸にして進行するが、主人公と呼べる人物は他に3人いる。ひとりはジエンの同棲相手であるヤンという女性。もうひとりは香港に出稼ぎに来て娼婦をしている、中国本土の若い女エン。エレベーターの整備士で、彼女のいない悶々とした生活を送っているリーという青年。映画はこれら4人の生活ぶりをつぶさに描写しながら、さしたる波乱もドラマもなく時間が過ぎていく。

 大きなドラマがないのにこの映画が最後まで面白いのは、登場人物たちそれぞれの人間像がよくできているから。みんながみんな、欠点だらけの人間として描かれている。大言壮語するわりにスケールの小さな仕事に甘んじ、女の世話になって暮らしているヒモ同然なのに、彼女と寝ているベッドに別の女を引っ張り込んで恥じることのないジエン。そんな彼との関係に倦み疲れながらも、関係を解消することなく腐れ縁のような生活を続けるヤンは、自分の足のケガについて周囲に嘘ばかりついている。娼婦の仕事を「短期でがっぽり稼げる仕事」と割り切っているエン。引っ込み思案な性格の下で、虚栄や自負心を肥え太らせ、抑えがたい暴力衝動を爆発させるリー。この映画はそうした人間のネガティブな部分がからまりあって、ひとつのネットワークを形成している。一歩間違えれば大騒動になりそうなものを、その手前で辛うじて持ちこたえているような危うさが、映画の全編に漂っている。観ていると、ちょっとドキドキします。

 レオン・カーファイは最近顔を見なかったのですが、この映画にはノーギャラで出演したとか。監督はこれが長編デビュー作になるユー・リクウァイ。『花様年華』の第2班で撮影を担当している人だそうです。

(原題:天上人間 LOVE WILL TEAR US APART)

2001年春公開予定 シネ・アミューズ
配給:ビターズ・エンド


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