神様の愛い奴

2000/12/13 映画美学校試写室
『ゆきゆきて神軍』の奥崎謙三が出所してやったことは?
黒い笑いに満ちたドキュメンタリー映画。by K. Hattori


 原一男監督の『ゆきゆきて神軍』で、暴力的なパワーを撒き散らしていた奥崎謙三。宮中参賀の中で「山崎!天皇を打て」と叫びながら、天皇に向かってパチンコを打ったこともある反天皇主義者。『ゆきゆきて神軍』のクランクアップ直前、戦争中の上官を射殺しようとして相手の自宅に乗り込み、本人がいないとその息子を撃って(このあたりの理屈がよくわからない)大けがをさせ、殺人未遂で懲役12年の刑を受けた危険人物。その奥崎謙三(77歳)が、ついにシャバに出てきたのだ。この映画はシャバに出てきた奥崎謙三の“その後”を追いかけた、何とも過激で毒々しいドキュメンタリー映画だ。

 しかしこれを、ドキュメンタリー映画と呼んでいいものなのかどうなのか……。この映画の作り手は、奥崎謙三にべったりと密着する。奥崎謙三を「先生!」と呼んで取り囲み、運転手役を買って出たり、身の回りの世話をしたりする。まるで奥崎謙三の崇拝者だ。これほど対象にベッタリと寄り添って、はたしてドキュメンタリー映画なんてものが作れるものなのか。1時間46分もかけて「我らがアイドル奥崎謙三さん万歳!」みたいな映画を観させられてはかなわんなぁ、と少し不安になる。東京から自宅のある神戸に向かう新幹線のホームで、付き添いの男が駅員を「貴様!無礼だろう!」と怒鳴りつけている様子を見て、ますます不安になる。なんだかとても、嫌なものを見せられてしまうような予感がする。

 ところがこの映画、そうそう一筋縄ではいかない。映画の作り手が奥崎謙三にベタベタしているだけかというと、どうもそれだけではない距離感のようなものがある。カメラに写し出されているスタッフたちの姿は、どう見ても「奥崎謙三を応援する崇拝者たちの群れ」でしかないのだが、それを見つめるカメラには、崇拝者の熱気のようなものがまったく感じられないのだ。まるで珍しい動物を用心深く撮影している、野生動物カメラマンのような視点とでもいうのだろうか。そしてこの映画がガラリと様子を変えるのは、奥崎謙三をアダルト・ビデオに出演させようという話が出てくる中盤以降。序盤はすべてこのAV撮影までの助走だったのか!

 僕は『ゆきゆきて神軍』を観て、奥崎謙三という人物に「唯我独尊の反権力主義者」というイメージを持っていた。だがこの『神様の愛い奴』では、そんなわかりやすいイメージなど木っ端微塵に打ち砕かれ、蒸発してどこかに消えてしまう。反骨の個人闘争を続けていた、反権力の闘志だと思っていた人が、AV女優にチンポコなめられて感激し、(おそらく)数十年ぶりに若い女と性交して体中をつっぱらかしている間抜けさ。しかも女優が腰使っている最中も、奥崎本人は手や頭をばたつかせて独自の「血栓溶解法」をやっている大間抜け。最高です。この瞬間から、僕はこの映画が大好きになってしまった。AV撮影が過激な内容になればなるほど、奥崎節も快調になっていく。『ゆきゆきて神軍』を観てすごいと思った人は、この映画も絶対に観るべきでしょう!

2001年1月公開予定 シネマ・下北沢
配給:LOFT CINEMA


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