ユリョン

2000/12/13 日本ヘラルド映画試写室
韓国の原潜がクーデターを起こし核ミサイルが日本に!
話の前提となる世界観についていけない。by K. Hattori


 韓国が旧ソ連への対外借款のカタに譲り受けた原子力潜水艦。外交上存在してはならないその艦を、韓国軍は「幽霊(ユリョン)」と名付けた。乗組員たちも全員、軍の中で処刑されたり殉職したりしたことになっている者ばかり。公式にはこの艦も乗員も、この世には存在しない。折しも韓国はアメリカ駐留軍と隣国日本から軍事的に監視され、常に主権が脅かされている。真に主権を回復するためには、原子力潜水艦という軍事力に頼るしかない。ユリョンに与えられた最初の任務は、艦を米日両国の監視下にある海域から脱出させること。だがこの秘密任務を与えられた艦長は、この任務が祖国の利益になるとはどうしても考えられなかった。彼は艦を秘かに沈没させようとする。だがこの任務に命を懸けようとしていた副長がそれを見破り艦長を射殺。核ミサイルのキーを奪って、日本の諸都市に照準を合わせる。韓国は世界に向けて戦線を布告する。最初に血祭りに上げるのは、韓国にもっとも大きな恥辱を与えた日本しかない!

 かわぐちかいじの「沈黙の艦隊」に、映画『クリムゾン・タイド』と『レッド・オクトーバーを追え』を足したような潜水艦アクション映画。韓国ではヒットしたというのだが本当かなぁ。『シュリ』で北朝鮮との関係を描いたから、次は日本との関係を描いた戦争アクションということだろうか。この映画の中では「敵」というのが日本の自衛隊なのだ。韓国の観客は、反乱を起こした韓国の原子力潜水艦が、次々に日本の潜水艦を撃沈していくことに拍手喝采しているのだろうか。どうも嫌らしい。こうした映画自体は荒唐無稽なバカ話だが、こうした映画が作られる背景には、韓国人の中に日本の外交に対する不満や不信や被害者意識が生まれていることを意味する。この映画が僕に嫌な感じを持たせたのは、この映画の作り手たちが、映画で描かれる日本に対する不信感や嫌悪感に、何の批判的な態度も示していないことだ。

 日本に核ミサイルを撃とうとする反乱派のリーダーに、それを阻止しようとする男が叫ぶ。「なぜお前は今この時に戦争を起こそうとするのだ。それが韓国の国益になるのか。まだ祖国には何の準備もできていないぞ」と。準備さえできれば、日本と戦争をするのも悪くないというのが、この映画の中で登場人物たち全員が共有している意識らしいのです。「5千年に渡る祖国の歴史」という言葉も出てきて、それを誰も何も否定しないところにも驚いてしまいました。中国4千年の歴史というのもかなり大げさなのに、朝鮮の歴史はそれより千年も古いらしい。民族主義というのは、こういうものなんですね。

 潜水艦同士の戦いが何度か出てきますが、潜水艦ものの定番である駆逐艦の爆雷攻撃とか、ソナーによる探知をどうやってくぐり抜けるかといったシーンが皆無なのは物足りない。全長百メートルを超える原潜はだだっ広すぎて、潜水艦映画に特有の「密室サスペンス」という雰囲気も出てきません。アクション映画としては、もっと工夫すべきところがたくさんあるように思いました。

(英題:Phantom: The Submarine)

2001年3月公開予定 渋谷シネパレス他 全国洋画系
配給:日活 宣伝:スキップ


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