ビョークの「ネズの木」
グリム童話より

2000/12/12 シネカノン試写室
グリムの原作を大胆にアレンジしたファンタジー映画。
ビョークの映画初主演作品。by K. Hattori


 グリム童話「ネズの木」を大胆に脚色した、ちょっと残酷なファンタジー映画。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でカンヌの主演女優賞を受賞した歌手ビョークが、初めて主演した映画はこれだという。撮影されたのは今から14年前の1986年。ビョークは撮影当時二十歳で、長男を出産したばかり。赤ん坊に授乳させながらの撮影だったというが、映画の中の彼女は十代のあどけない少女にしか見えない。監督・制作・脚本・編集は、アメリカのインディペンデント映画作家ニーツチュカ・キーン。撮影はアイスランドで行われている。

 グリムの原作は、子持ちのやもめ男と結婚した女が前妻の子である少年を疎み、ついには殺してしまうという話だ。子殺しの罪を隠蔽するため、継母は死んだ少年の遺体をバラバラにしてスープの中に入れ、父親に食べさせてしまう。しかしこの父親と冷酷な女の間に生まれた少女は兄の死を悲しみ、テーブルの下に捨てられた骨を拾い集めて、少年の母が葬られているネズの木の根本に骨を埋める。すると少年の骨は鳥になって飛び立ち、継母の頭上に石臼を落として復讐する。継母が死ぬと少年は人間の姿に戻り、父親と兄妹は仲良く暮らすようになる……。映画はこれをかなり大幅にアレンジ。

 後妻に入った女と新たに生まれた娘という設定を、魔女の娘であるがゆえに故郷を追われ、安住の地を得るため強い男の保護を頼る姉妹という設定にした。姉妹には母ゆずりの不思議な力がある。彼女たちは各種のまじないや呪文によって、人や動物の心を操ることができる。姉は魔法を使ってやもめ男の心を虜にする。だが彼の息子は、亡き母を慕って新しい母親になつこうとしない。しかも少年は、姉妹が魔女であることも即座に見抜いてしまう。原作ではひたすら冷酷な継母だが、この映画の中の彼女は自分と妹の身を守るために、どうしても男性の保護を必要とする弱い女。彼女は彼女なりに誠意をつくして新しい家族のためにつくそうとするが、子供はいつまでも彼女になつかない。それどころか「魔女」と口走る。姉妹の母親は魔女として火あぶりになっている。自分たちも殺されるのではないかという恐怖。この恐怖心が、少年への憎悪へと変貌して行く。

 ハリウッドで映画化された『スノー・ホワイト』などと同じ、現代流解釈の古典童話です。原作の中には魔法の要素などひとつもないのに、あえて民間信仰や呪術などの要素をまぶして不思議な世界を作り上げている。『五条霊戦記//GOJOE』が弁慶と牛若丸の世界に、呪術の要素を入れているのと同じだ。中世には魔術や呪術は特別な世界のものではなかった。日常の暮らしのすぐ隣に呪術的な世界が広がっていて、人々はそこからさまざまな力を受け取って生活していたのだ。

 モノクロの映像が非常に美しい。登場人物を極端に整理し、物語に最低限必要な4人だけで物語を作っている。家の中で煮詰まっていく人間同士の葛藤と、家の外に広がる大自然とのコントラスト。よくできた映画です。

(原題:THE JUNIPER TREE)

2001年お正月第2弾公開予定 渋谷シネ・アミューズ(レイト)
配給:コムストック


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