グリンチ

2000/11/27 イマジカ第1試写室
嫌われ者のグリンチはなぜ村のクリスマスを盗んだか?
ジム・キャリー主演の子供向けファンタジー。by K. Hattori


 Dr.スースの「グリンチはどうやってクリスマスを盗んだか(How The Grinch Stole Christmas)」は、アメリカ人なら誰もが知っている児童文学作品。1966年にはアニメ化されて、クリスマス・シーズンになればビデオやテレビ放送で今も人気の定番番組になっているという。『クリスマス・キャロル』や『三十四丁目の奇蹟』みたいなものなのかもしれません。その人気キャラクターを、はじめて実写で映画化したのがこれ。監督はロン・ハワード。主人公グリンチを演じているのはジム・キャリー。雪の結晶の中にある小さな村“フーヴィル”を舞台にした幻想的なお話です。

 クリスマスを前にして、村中がウキウキ楽しくて幸せな空気に包まれているフーヴィル。でもその北にあるクランペット山の上では、全身を緑色の毛で覆われたグリンチが、下界の様子を苦々しい表情で見ていた。グリンチはたったひとりで山に住む変わり者。フーヴィルの住人たちを憎み、彼らの不幸を喜び、幸福を許せない性分。そんなグリンチにとって、クリスマスは1年の中でもっともいまいましいシーズンだ。そんなグリンチに興味を持ったフーヴィルの少女シンディは、年に1度クリスマスの時期に選ばれる名誉市民にグリンチを推薦する。

 物語そのものはいかにも子供向け。幼い子供の優しい心が、冷たく凝り固まったグリンチの心をとかしていくというお話だ。世の中には悪い人なんていない。どんなに意地悪に見える人でも、その心の中には優しい部分が息づいている。それに周囲や本人が気付きさえすれば、意地悪で乱暴で強情な人も人を愛し、愛される人に生まれ変われる。じつに教育的であり、大人が子供に向けて安心して見せられるお話になっている。

 こうした「安心感」が、大人にとっては物足りなさになっているのも事実。監督始めスタッフは『オズの魔法使』を十分に意識していると思うのだが、『オズ〜』の場合は現実とファンタジーの二重構造が映画のテーマと結びつき、面白い効果を上げていた。『グリンチ』でも同じような効果を狙うなら、主人公のグリンチと市長、あるいはシンディのお父さんを、ジム・キャリーが二役で演じるくらいの工夫があってもよかったと思う。ただしこうした注文は、子供にはまったく関係のないことかもしれない。子供はこの映画を、たぶん心から楽しめるんじゃないだろうか。散らかし放題のグリンチの部屋は、子供部屋と同じ。汚いものが大好きで、いつも憎まれ口をたたき、強がりばかり言っているグリンチは、子供たちにとって身近な隣人だと思う。

 細部に至るまで作り込まれたフーヴィルの世界は、『オズの魔法使』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』みたいで楽しい。ただしこの2作品のような毒気がまったくないため、妙に薄っぺらではある。この映画の中では、毒気をすべてグリンチが受け持っているのだからこれは仕方がない。グリンチが村に来ると、とたんにフーヴィルは生き生きとしてくるのだ。

(原題:The Grinch)

2000年12月16日公開 みゆき座他 全国東宝洋画系
配給:UIP


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