ビッグ・ママス・ハウス

2000/11/20 FOX試写室
脱獄犯を追うFBI捜査官が特殊メイクで一人二役。
マーティン・ローレンス主演作。by K. Hattori


 『バッドボーイズ』で大ブレイクしたウィル・スミスに比べ、同じ映画でスミスの相棒を演じながら、ブレイクしきれずにいるマーティン・ローレンスの主演最新作。俳優としてはエディ・マーフィの主演作『ブーメラン』に脇役で出演した頃から印象に残る芝居をしていた人なのに、器用貧乏で大成し切れていないような気がするのは残念。主演作の『ブルー・ストリーク』も、映画としてもすごく面白かったんだけど、それが俳優としてのマーティン・ローレンスの評価にはつながらない。たぶんそれは、この『ビッグ・ママス・ハウス』でも同じだと思う。この映画なんて、アイデアも他のヒット作の二番煎じみたいだから、余計に損をしてしまう。

 今回ローレンスが演じているのは、FBIの敏腕捜査官マルコム。彼の新しい任務は、脱獄した銀行強盗犯レスターを捕らえることだ。レスターは服役前に盗んだ大金をどこかに隠している。脱獄したレスターは、最初にその金を回収するだろう。金の隠し場所を知っているのは元恋人のシェリーか? だが彼女はレスターの脱獄を知ると、幼い子供を連れて姿を消す。マルコムはシェリーが身を寄せると考えられる彼女の祖母“ビッグ・ママ”の家に入り込み、得意の変装術でビッグ・ママに成りすましてシェリーの到着を待ちかまえる。

 映画の見どころは、マーティン・ローレンスが特殊メイクとボディスーツを使って、ビッグ・ママに変身する部分だろう。一人二役の入れ替わりがばれないように、ビッグ・ママの家とその向かいにある張り込み用の家を往復するドタバタ。ビッグ・ママを演じているうちに、共犯容疑者のシェリーに心惹かれてしまうマルコムの心理的葛藤。ただこうした特殊メイクによる変身は、ロビン・ウィリアムスの『ミセス・ダウト』という映画もあったし、エディ・マーフィの一連の作品もあるので特に新鮮味はない。変身のアイデアがものすごくユニークなものなら構わないのだが、先行するヒット映画の二番煎じ三番煎じに感じられてしまうから、それだけで1本の映画を成立させるのはもはや不可能なのではないだろうか。犯罪捜査のためとはいえ、善良な一般市民の家に勝手に忍び込んで隠しカメラや盗聴マイクを仕込んだり、留守中に勝手に住人に成りすましてその家で暮らし始めるのは不自然。特殊メイクによる変身も、この不自然さを打ち消すほどのインパクトがないのだ。

 物語は変身のアイデアを出発点に、主人公の心理的な葛藤、相棒との連係プレー、近隣住人たちとの交流、シェリーや息子と打ち解けて行くエピソードなど、かなり盛りだくさん。ただしこうした脇のエピソードが、単なる添え物になっているのは残念。主人公がなぜシェリーに惹かれるようになるのか、なぜ彼女の無実を心から信じるようになるのかという大事な部分も、おざなりな描き方しかされていない。主人公の心理的な葛藤が本物のビッグ・ママ登場でついに破綻するクライマックスは、本当ならもっと面白くなるはずなんだけどなぁ……。

(原題:BIG MOMMA'S HOUSE)


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