ベトナムから遠く離れて

2000/11/13 映画美学校試写室
ベトナム戦争の真っ最中に作られた反戦ドキュメンタリー。
善悪二元論が世界を単純化する。by K. Hattori


 浅田彰セレクション「若者よ目覚めよ!」という特集上映で、『北緯17度』『東風』と共に上映されるドキュメンタリー映画。ベトナム戦争まっただ中の1967年、フランスを中心とする150人の映画人がアメリカ帝国主義の侵略に抵抗するベトナム人民への連帯を表明するため、ボランティアで製作した作品だという。監督はアラン・レネ、ウィリアム・クライン、ヨリス・イヴェンス、アニュエス・ヴァルだ、クロード・ルルーシュ、ジャン=リュック・ゴダールなど。2時間近い映画はいくつかのパートに別れ、ベトナム戦争の内と外から記録し、解体し、分析し、論評を加えていく。

 この映画はベトナム戦争を、じつに単純な二分法で解釈する。つまりこれは「重武装の近代兵器群を持ちながら思想も信念もないアメリカ軍」と「武器は貧弱だが民族自立を掲げて帝国主義に抵抗する勇気あふれる人民ゲリラ」の戦いだ。もっと簡単に言ってしまえば、アメリカは「悪」でベトナムは「善」なのだ。そして「正義は必ず勝つ!」ことを人々は信じている。でもこれは必ずしも真実ではないだろう。南北ベトナム間の紛争にアメリカが介入したのは、それより10数年前の朝鮮戦争とどう違うんだろうか? ベトナム戦争当時にアメリカを非難していた日本のマスコミは、韓国をアメリカ傀儡の軍事独裁国家だとして非難し、心情的に北朝鮮を応援していた。これはこれで筋が通っている。でもベトナム戦争から30余年がたった今、こうした単純な見方をすることはできない。ベトナムは戦争の後、着々と経済的な復興を遂げている。国全体が刑務所のような、北朝鮮型の共産主義国家になることはなかった。でもそれは、結果に過ぎないんじゃないだろうか。

 当時のアメリカは共産主義を敵対視していたし、アメリカが手を引くことでベトナム全体が北朝鮮のようになることを恐れていた。ベトナム戦争最中の'60年代後半には、中国で文化大革命が旋風を巻こし、右派や知識人を大量に粛正した。ベトナム戦争の直後の'75年には、カンボジアでポル・ポト派が政権を執って国中で大虐殺を行っている。(ポル・ポト政権と敵対したのがベトナムだというのが面白い。)こうした歴史の中でアメリカのベトナムへの介入を考えると、それを単純に「悪」と決めつけてしまうのもどんなもんでしょう……。ベトナム戦争は基本的に南北ベトナムの争い。だからアメリカ軍が撤退した後も、サイゴン陥落まで2年も戦争が続いている。アメリカが戦っていたのは人民ゲリラではなく、ほとんどの場合は北ベトナムの正規軍だった。でも「人民の戦い」をアピールするこの映画には、当然ながら北ベトナムの正規軍など登場しないのだ。

 『ベトナムから遠く離れて』というタイトルは、ベトナムとフランスの地理的距離を表している。でも今はむしろ「ベトナム戦争終結から25年」という、時間的な距離の方が大きいように思える。この映画は「同時代性の危険」を教えてくれるいい教材になっている。

(原題:LEJOS DE VIETNAM)


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