楓牙(ふうが)

2000/11/09 キリンビール新川本社
「キリン アートアワード200」最優秀賞を受賞した作品。
超低予算のインディーズ時代劇映画。by K. Hattori


 キリンビールが若手芸術家への支援として開催した現代美術のコンクール「キリン アートアワード2000」で、今年の最優秀作品賞を受賞した自主製作映画。このコンクールは映画も含むあらゆるアート作品が審査対象。同じ賞を受賞した人の中には『金髪の草原』の犬童一心監督がいる。犬童監督は『金魚の一生』で、この賞の前身であるキリンコンテンポラリーアワード'93の最優秀作品賞を受賞。『楓牙(ふうが)』の受賞は、それ以来の映画作品受賞になるという。

 8ミリで撮影し、ビデオで最終的な編集が行われたモノクロの時代劇映画。製作したのはIndie's Film Makers "ZOLTAR"で、代表の梅崎雄三は34歳。ある乱世の時代、国同士の戦乱の狭間で生きる小さな武装集団があった。戦いの場に表立って姿を現すことはなく、鍛え抜かれた技で影の仕事に専念する者たち。だが間もなく隣国同士が和議を結び、長く続いた戦いが終わろうとしている。だが和平を妨害しようとする活殺師は謀反を起こして親方を殺し、親方直属の精鋭軍団・風組の若者たちを抹殺しようとする。和平の密書を託された風組は、最後の任務を果たすために森の中を駆け抜ける。

 時代劇ではあるが、風俗考証はあえてデタラメにしてある。この物語がいつの時代のどの地方を描いたものなのかは、まったくわからない。服装も時代劇のそれとは異なるし、言葉遣いもまったく時代劇風ではない。ひょっとしたら、この映画は遠い未来について描いているのかもしれないし、この日本ではない外国や、別の世界について描いたSFなのかもしれない。自主映画でお金がないため、あえてこうした設定にしてあるのだろう。すごく安上がり。もうひとつ安上がりに作る工夫は、この映画が森の中から一歩も出ないこと。かつて黒澤明は『羅生門』を撮る際、必要なセットは羅生門と検非違使の庭の2杯だけで、残りは全部山の中でロケするから低予算で済むと映画会社に説明した。すべての物語が森の中で進行する『楓牙(ふうが)』も、発想としては同じようなものだ。あるいは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の影響があるのかもしれないが……。

 この映画で素晴らしいのは、森の中を走る俳優たちをカメラが追いかける疾走感。打楽器を使った音楽の効果もあって、観ていてかなり血が騒ぐ。モノクロ映像はかなりハイコントラスト。スタンダードサイズという画面フォーマットも手伝い、まるで昭和初期のサイレント時代劇を観ているような雰囲気だ。物語の発想は小山ゆうの人気コミック「あずみ」の影響下にあるのは明白だが、この疾走感は映画ならではの表現だと思う。

 ただし1時間46分という上映時間はちょっと長い。この内容で1時間半になれば、もっとキビキビした映画になったと思う。説明調の台詞が多いし、追っ手から密かに逃げているはずの主人公たちが、しばしば大声で叫ぶのも不自然。チャンバラを殺陣ではなくアクションとして見せようとする意図はわかるが、あと一工夫だろう。


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