ダイナソー

2000/10/31 ブエナビスタ試写室
隕石の衝突で絶滅寸前たちの恐竜たちがサバイバル。
技術的にはすごいけど、物語が安い。by K. Hattori


 今から6,500万年前の白亜紀末期。巨大隕石が地球に衝突して、恐竜たちはそれまで暮らしていた安住の地を追われてしまう。恐竜たちは群れを作り、はるか彼方にある伝説の楽園“生命の大地”を目指す。水も草もない不毛の地を歩き続ける強行軍。力のないものは脱落し、後ろから近づく肉食のラプトルやカルノタウルスの餌食になる。卵の時に翼竜にさらわれ、キツネザルの一家に育てられたアラダーは、そんな弱い恐竜たちを見捨てることができない。群れのリーダーであるクローンに逆らって、アラダーは数頭の恐竜たちと共に別のルートで旅を続けることになる。はたして彼らは“生命の大地”にたどり着くことができるのか……。

 ディズニーの長編アニメーション部門が製作したCGアニメ。ピクサー製作の『トイ・ストーリー』や『バグズ・ライフ』のように背景まで全部CGで作り込むのではなく、背景は実写映像を使い、そこにCGで作った恐竜たちをはめ込むという手法が採られている。世界中で背景をロケ撮影するだけで、1年半をかけたという。この映画では背景は単なる「止め絵」ではなく、恐竜のアクションに合わせてカメラの視点が動き、それと背景の動きが同期しなければならない。風景をロケする場合もあらかじめ現地を細かく測量し、コンピュータでキャラクターの動きと背景の見え具合を細かくシミュレーションしてから実際の撮影を行ったという。

 CGと実写の合成技術という意味ではすごいのかもしれないが、映画作品としてのできは今ひとつという印象だ。善玉と悪玉を単純に塗り分けたキャラクター造形は単純すぎるし、物語も平板で波乱が少しもない。1時間22分と上映時間が短く、その中にさまざまなエピソードが盛り込んである割には充実感がないのも、物語の足腰が弱いからでしょう。この映画の中では、キャラクターの成長というドラマがほとんどない。優しい主人公は優しいままであり、頑固なリーダーは頑固なままであり、気のいいサルは気のいいサルのまま。どこかで相手を認めるとか、自分の失敗に気づくとか、そういう目に見える展開があると「成長したぞ」という手応えになり、映画を観た後の充実感も生まれると思うのだけれど。

 この映画がやっていることは、恐竜版の『ターザン』であり『バトルフィールド・アース』です。他とは抜きん出た素質を持つ主人公が、無知蒙昧で非力な集団の中に投げ込まれ、そこでリーダーとして資質を開花させる。主人公は最初から優れているのだから、彼は努力も工夫も成長も必要としない。主人公は善玉だが彼の革新性は周囲に理解されず、頑固な前任リーダーが外敵に排除されたことで主人公の出番になる。ここにはリーダー交代に至る葛藤も存在しない。主人公は自動的にリーダーになる。悪玉である肉食竜は徹底して排除されるべき存在で、彼らは“生命の大地”に入ることが許されない。肉食竜は飢え死に、ベジタリアンの平和主義者だけが生き残る。なんだか偽善的な話だよなぁ……。

(原題:DINOSAUR)


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