13デイズ
サーティーン・デイズ

2000/10/26 丸の内ピカデリー1
世界が核戦争の危機に一番近づいたキューバ危機。
出来事の羅列に観ている方が混乱。by K. Hattori


 第二次世界大戦では同じ連合軍として共にドイツと戦いながら、戦後は世界を東西ふたつに分けて分厚い鉄のカーテンで仕切ったアメリカとソ連。カーテンはそれぞれが身を守ろうとする意思の表れだったのかもしれないが、相手から完璧に身を隠そうとすれば、自らも相手が見えなくなるというジレンマが生じる。米ソは相手がよく見えないまま軍拡競争を繰り返し、「やられたらやり返すぞ!」と高く拳を振り上げたまま疑心暗鬼という罠に落ちて行く。振り上げた拳は相手にとっても脅威だが、自分自身も拳の重さで疲れてくる。疲れは思考力の停止を生む。いっそのこと理由など関係なしに、相手に先制パンチをお見舞いするのも悪くない選択ではないような気がしてくる。自分たちがそう考えているのだから、当然相手も同じように考えていることだろう。軍備の際限ない拡大と論理の悪循環が、世界を危機に追いやる。

 1962年の10月。キューバにソ連のミサイルが運び込まれた時、米ソ両首脳とその側近たちは、世界規模での全面核戦争開始にゴーサインを出す寸前だった。この映画は世界が核による絶滅にもっとも近づいたキューバのミサイル危機を、ケネディ政権がいかにくぐり抜けたかを描いた実録ドラマだ。プロデューサーも兼ねたケビン・コスナーが扮しているのは、ケネディの側近中の側近とも言うべきケネス・オドネルという実在の人物。彼は大統領特別補佐官という立場からケネディと常に一緒に行動し、キューバ危機にケネディ政権がどう対処したかについてもつぶさに見られる立場にあった。この映画は77年に亡くなったオドネルが生前に残した100時間ものインタビューと、ケネディの回想録、ケネディが残した当時の録音テープ、情報公開された政府の秘密文書などをもとに脚色されたものだという。

 扱っている題材は面白いのに、映画としてのまとまりが非常に悪い。キューバのミサイルが発見されてから問題が解決するまでの13日間がつねに緊張の連続で、どこが山場なのかさっぱりわからない。「ピンチをくぐり抜けると次のピンチがやってくる」というのがサスペンスの基本だと思うのだが、この映画はピンチが常に幾つも一度に襲ってくるから、主人公たちがそれをどう解釈し実際にどう行動したのか、つながりが理解しにくいのだ。実録ものという制約はあるにせよ、もう少し脚本が内容を噛み砕いてくれないと頭がこんがらかる。また、もったいぶったモノクロの映像や、キューバ側からみたミサイル基地や対空攻撃の様子などは、この映画に本当に必要だったのだろうか? ミサイル基地の様子を再現するのにお金をかけなくても、純粋にアメリカ側の視点から映画を作った方が面白かったような気がする。

 映画のテーマもわかりにくい。政府と軍部の対立。周囲の意見に押し流されない強いリーダー。情報不足や疑心暗鬼の恐ろしさ。いろんな要素が含まれているのだが、最後の最後には「ケネディ兄弟は立派だった」で終わらせてしまう。そんなこと、今更言われてもなぁ……。

(原題:Thirteen Days)


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