デルフィーヌの場合

2000/10/26 映画美学校試写室
フランスで実際に起きた事件をもとにした青春映画。
前半中盤にやや精彩がないのは残念。by K. Hattori


 平和でごく平凡な家庭の、ごくごく日常的な朝の風景。15歳のデルフィーヌは、朝シャンのあとの洋服選びに余念がない。髪をいじくり回したり、服をとっかえひっかえしても、最後は無難なセンに落ち着いてしまうのはいつものことだ。医者をしている父と、画廊勤めの母。デルフィーヌはそんな両親にたっぷりの愛情を注がれて育っている。思春期を迎えて体が大人っぽく変化してきているとはいえ、デルフィーヌはクラスで一番あどけなく幼い雰囲気を残した少女だ。そんな彼女の前に、ひときわ大人びた転校生オリビアが現れる。自分と正反対のオリビアに憧れるデルフィーヌは、彼女を案内役にして、自分の知らなかった世界におずおずと足を踏み入れる。万引きのスリル、若者たちがたむろするクラブ、真夜中のパーティー、そして初めての恋。

 フランスで10年ほど前に起きた実際の事件をもとに、ジャン=ピエール・アメリスが監督した青春ドラマ。デルフィーヌ役のモード・フォルジェはこれが映画デビュー作。オリビアを演じているのは、ジャック・ドワイヨンとジェーン・バーキンの娘であるルー・ドワイヨン。ふたりは1982年生まれ。デルフィーヌのボーイフレンドになるロランは1歳年上という設定だが、演じているロバンソン・ステヴナンは'81年生まれ。この映画は1998年の製作なので、撮影当時彼らは演じている役柄とほぼ同じ年齢だったことになる。

 幼い恋の残酷さを描いた映画で、思春期を通り過ぎてきた人なら誰もが、この映画に描かれているひたむきさや切実さに心当たりがあると思う。幼い恋はその恋を他と客観的に比較するモノサシを持たず、目の前にある恋人や自分の気持ちを絶対化してしまう。今ある恋を運命的な結びつきと信じ、それに向かってまっすぐに突き進む。他人の助言も耳に入らず、冷静な判断力は奪われる。未来がどうなろうと構わない。今この時手に入れられる幸せのために、恋人たちはどんな犠牲でも払う。無分別な恋なのです。でもこうした無分別さに人が共感するからこそ、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』は永遠の古典であり続けるのだと思う。

 ただしこの映画、導入部は悪くないのだが、中盤のデルフィーヌとロランの恋愛関係があまり幸せそうに見えず、むしろ破局を前提とした終盤の地獄巡りの方が気が楽になるという面がある。デルフィーヌがいかにロランに夢中なのか、彼女の目から見るといかに彼が素敵な男性に見えるのかをもっと丁寧に描いてほしい。ロランの現実逃避願望を、もっと切実に描いてほしい。デルフィーヌに対するオリビアの負い目を、彼女と姉との関係もからめてきちんと描いてほしい。そうすることで、若者たちが泥沼の地獄に追い込まれていく悲劇が際だつと思う。この映画を観ていると「他にもやりようがあるだろうに」と思ってしまう。彼らにはその方法しか思い浮かばず目に入らなかったという現実が観客にも共感できれば、この映画はもっとすごい映画になったと思う。

(原題:Mauvaises frequentations)


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