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シックスティナイン

2000/10/25 映画美学校試写室
タイ生まれのタランティーノ風サスペンス・コメディ。
独身女性の部屋に次々死体が。by K. Hattori


 信販会社でごく平凡なOLとして働いていたトゥムは、不況とくじ運の悪さで会社を解雇されてしまう。途方に暮れる彼女は、部屋の前に置き去りにされた薄汚い段ボール箱を発見。こわごわ中をのぞいてみると、そこには100万バーツもの大金がぎっしり詰まっていた。これは絶対にヤバイ金だが、無一文のトゥムにとってこれは千載一遇のチャンス。金を取り戻しに来た人相の悪い男たちに一度は何も知らないと言ったトゥムだったが、彼らはトゥムに暴力を振るい、彼女ははずみで相手を殺してしまう。部屋には死体が2つと、100万バーツの札束が残される。死体を隠し、金を持って外国に逃げようとするトゥムだったが、金と手下が消えたことに気づいたヤクザは、再び別の手下をトゥムのアパートに送り出す。彼らは部屋で仲間の死体を見つけるが……。

 『アンナと王様』『ブロークダウン・パレス』『ザ・ビーチ』など、ハリウッド映画がしばしば題材にするタイ王国で作られたサスペンス・コメディ映画。ヒロインの部屋の前に大金を置き去りにしたヤクザがムエタイのジムを経営しているというあたりが、いかにもタイらしい。国外脱出を目論んで偽造パスポートを作ろうとする彼女に、ヤクザが言う「外国人から見ればタイ人は全員が麻薬の売人か売春婦だから、ビザなんて簡単にもらえないぞ」という台詞もタイらしい。制服の警官が真っ昼間から恋人の部屋で逢い引きをするといういい加減さも、タイらしいのかもしれない。ハリウッド映画がタイをこんな風に描けば、やれ差別だなんだと文句を言われそうだが、この映画を作ったのはタイ人の監督なので文句を言われる筋合いがないのだろう。自国が外国からどう見られているかをセルフパロディのように描くこの映画は、本国タイでも大受け。1年間で500万人を動員したという。タイの映画産業の実状や映画人口がどの程度なのかわからないので、これがどのぐらいのヒットなのかさっぱり見当がつかないのだけれど……。

 監督・脚本・製作のペンエーグ・ラッタナルアーンはバンコク出身だが、10年ほどアメリカ暮らしをしていた経験があるという。イラストレーター、グラフィックデザイナー、アートディレクター、CMディレクターなどを経て、'97年に映画監督デビュー。本作は彼の2作目だという。独身美女の部屋を訪れた男たちが、わずか数時間の内に次々に殺されて籐かごに押し込められるという物語を、独特のテンポで描いていくノリの良さ。ただしこのテンポとノリがハリウッド映画や日本映画とは異質なので、それにうまく合わせられるようになるまでは少し眠さを感じるかもしれない。僕は途中で少しウトウトしてしまった。筋運びの巧みさや人物の出し入れのうまさ、暴力描写とギャグの融合などは、明らかにタランティーノ映画に影響を受けたものだろう。悪党連中の個性的な面構えや性格は、『鮫肌男と桃尻女』とそっくり。『鮫肌』を面白いと思った人は、『PARTY7』を観るよりこちらの方が楽しめると思う。

(原題:69)


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