とらい・とらい・トライ!
元気を獲りに行くべ

2000/10/20 岩波シネサロン
山形県金山町のお年寄りたちと宮古島との交流。
トライアスロン大会がクライマックス。 by K. Hattori


 女性ドキュメンタリー映画監督・熊谷博子が、山形県金山町の老人たちによる宮古島訪問の様子を取材したビデオ作品。東京国際映画祭の協賛企画、カネボウ国際女性映画週間「映像が女性で輝くとき」のプレイベント「まちづくり・人づくり・映画づくり」の中で上映される作品の1本だ。上映時間が52分という短い作品だが、金山町と宮古島が交流をはじめるきっかけから、実際の交流の実態までを丁寧に描いている。思わず笑ってしまうような場面も多く、好感の持てる作品だ。

 宮古島のトライアスロン大会に参加した金山町の男性が、選手たちをサポートする島のお年寄りたちの素朴な温かさに感動し、「この島に町の老人たちを連れてきてみたい」と考えたのがすべての発端。その後さまざまな協力を得て、金山町から何人かのお年寄りが宮古島に渡ることになる。トライアスロン大会の日程に会わせた、わずか8日間の滞在。それでも見るもの聴くものすべてが目新しいものばかりで、金山町のお年寄りは大いに刺激を受けて町に帰って行く。宮古島で子供のようにはしゃぎ回る、お年寄りたちの姿が非常に印象的。

 映画のクライマックスは宮古島のトライアスロン大会。この大会は出場年齢の上限が56歳までになっているのだが、上限すれすれの参加者たちが次々にレースを完走しきってしまうのには驚く。数年前からトライアスロンを始めたという60代の夫婦や、義足でレースに参加する62歳の男性などを観ていると、人間の肉体が持っている潜在能力やねばり強さというものを痛感してしまう。僕は運動がまったくダメなので、観ていてもひたすら関心するばかり。トライアスロンはタイムを競う競技ではなく、制限時間内での完走を目指すのが目的。そのため大会によって、コースの長さがまちまちだったりしても一向にお構いなしだったりする。(最後のフルマラソンは42.195キロで統一されているが、遠泳や自転車については開催地ごとにコースの長さが違う。ちなみに宮古島の場合は、遠泳が3キロで自転車は155キロ。)トライアスロンは自分との戦いなのだ。レースといっても常にマイペース。過酷な競技でありながらどこか大らかさがあるのは、そんな競技の性格ゆえだろう。金山町から宮古島を訪れていたお年寄りたちは、レースのボランティアを手伝うことで、そのレースとの一体感を味わう。

 映画は前半で金山町と宮古島との交流を描き、後半ではトライアスロンに出場する人々の姿を描く。後半では金山町のお年寄りがずっと後退し、焦点がぼけてしまっていると思う。それでもこの映画が何とかひとつにまとまっているのは、「元気なお年寄りたち」という映画のテーマだけが辛うじて共通しているからだ。雪深い東北の町で農作業とゲートボールと雪下ろしに明け暮れていたお年寄りたちは、南の島でさまざまな人たちに出会うことで、自分たちの中に眠っている別の可能性に目覚めてしまう。わずか数日の旅で、お年寄りたちはすごく元気になる。人間はいくつになっても、適当な刺激さえあれば大きく変化し成長することができるものらしい。


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