シベリア超特急2

2000/10/18 日本ヘラルド映画試写室
シベリア超特急に乗って、あの山下将軍が帰ってきた!
水野晴郎監督の素人映画第2弾。 by K. Hattori


 映画評論家の水野晴郎が、自ら監督・主演・製作・原作・脚色を手がけたワンマン映画第2弾。(じつは僕、話題になった前作を観てません。話のつながりは特にないので、観ていなくても構わないと言えば構わないのだけれど。)撮影日数1か月。ポストプロダクションに7か月を費やして未だに最終版が出来上がっていないという本作は、水野監督こだわりの作品。彼が陸軍大将・山下奉文を演じるのは今回が3回目で、最初は日活を倒産に追い込んだ大作『落陽』のゲスト出演だった。『落陽』は僕も観たけれど、水野晴郎の演技はその頃からまったく変化がない。本人の人柄が、そのまま劇中の山下将軍になっているような雰囲気だ。

 前作は一部でカルト映画のようになっているのだが、僕は実物を観ていないのでそれについては何とも言えない。今回の映画を観れば、だいたいの想像はつくけどね。とにかくこの映画、サービス満点なのです。いろんな映画からいい場面を引用して、映画の中に取り込んでいる要領のよさもある。映画の冒頭、ホテルに集まる各界のお歴々を新聞記者が説明するくだりは、黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』だし、宿泊客たちの証言シーンで尋問する側を見せず、ひたすら証言者の表情と再現シーンで構成していくのは『羅生門』です。ただしこの映画、脚本がまったくダメ。役者の芝居がダメ。演出がダメ。それをネタの多さでカバーしようとしても、ちょっと苦しい。それを笑ってしまえればいいのだろうが、僕は映画そのものより、上映前に挨拶に出てきた監督本人の方がインパクトがあって、本編では笑えなかった。

 この映画を一言で表せば、場末の温泉旅館で出される豪華料理みたいなものです。大きなお膳の上に海の幸と山の幸が豪華に盛りつけられ、刺身があり、天ぷらがあり、煮物があり、焼き魚があり、小鍋にはすき焼きが煮え、茶碗蒸しがついている。でもそのどれもが、特にうまくはない。たぶん作っている側も味の悪さを自覚していて、それをカバーするために品数だけ多くして豪華に見せているのではないかという、そんな料理です。

 この映画の見どころは、プレス資料にいろいろと書いてあります。曰く『第三の男』『ジャイアンツ』に挑戦したラストシーン。曰く『戦艦ポチョムキンに挑む階段落ち。曰く豪華出演陣。曰くフレッシュ映画初出演組。少年少女愛の別れ。曰く映像の魅力のすべてをかけたロープなげ。曰くタンゴの謎。曰く『羅生門』のお白州シーンを意識した女優たち一人一人の告白シーン。全女優が大緊張。曰く日本映画初。11分の超長回し。どれもたしかに嘘じゃない。でもそれは温泉旅館の冷めて固くなった天ぷらと同じで、とても食えたものじゃない。

 温泉旅館の場合、料理はまずくてもお湯に入っていればそれで旅行気分だけは味わえる。でもこの映画の場合、温泉旅館のまずい料理が町中のレストランに出てきたようなものだからなぁ……。一種のゲテモノ映画として、興味のある方はご覧になってみてください。


ホームページ
ホームページへ