弱虫
(チンピラ)

2000/10/10 東宝東和一番町試写室
望月六郎監督が北村一輝主演で人気コミックを映画化。
ダメ男の僕はこの映画に感動してしまう。by K. Hattori


 「週刊漫画ゴラク」で連載されている立原あゆみの人気コミックを、『鬼火』『皆月』の望月六郎監督が映画化。主演は『皆月』にも出演していた北村一輝。望月監督はいつも通り、ダメ男とダメ女のベタベタした恋愛関係を情感たっぷりに描いている。ジャンルとしてはやくざ映画だけれど、この映画はもうそんなジャンルの縛りを突き抜けて、まったく別のものになってしまった。

 この映画には、やくざ映画に不可欠なギラギラしたところがひとつもない。組織の中での権力争いという、お決まりの物語を背景に置きながら、勢力確保に血道を上げる男たちの欲望がストレートには描かれていない。この映画に登場するヤクザたちは、今以上の何かを求めていないのです。彼らは今ある状態を守ることに躍起になっている。みんな自分の身が可愛くて、今持っているモノを手放したくなくて、周囲に傷つけられることや、モノを奪われることにびくびくしながら暮らしている。

 タイトルは『弱虫(チンピラ)』ですが、この映画に登場する男たちはみんながみんな意気地なしで弱虫です。主人公の北爪修は自分に惚れる女に食わせてもらいながら、彼女に心底惚れているというわけでもない。町でヤクザたちに追われている恵子を一度は助けるものの、彼女が組長の愛人だと知るとあとは知らん顔。とりあえず波風立てずにあちこちにいい顔しておくのが、修なりの処世術。でもそれは優しさじゃない。「何もしてやれないから、適当につき合っている」だけなのです。組長は若い愛人に入れあげて、彼女が逃げはしないかといつも戦々恐々。彼女が逃げることを恐れて、ついにはシャブ漬けにしてしまう。そんな組長から時期若頭候補と言われている朝村は、組の中で自分の地位を守ろうとあれこれ策を巡らせる。修の親分である船水も、組から独立して一本になる話を受けながら、それに乗りきれない。とにかくどの男たちも、およそヤクザ映画の登場人物らしくない。引退した先代を演じる麿赤児もすっかり脂気が抜けてさっぱりしているし、船水にいたってはそこいらのサラリーマンと見た目が変わらない。

 物語の中心は、修と有美と恵子の三角関係。そこにアクセントを加えるのが、修と知り合う援助交際希望の少女。これがぞれぞれ、修を守り養う母親タイプ、修と惹かれ合う恋人タイプ、修の成長に刺激を与える友人タイプという、女性像の三位一体を形成している。有美を演じるのは星遥子、恵子を演じるのは新人の宮前希依。どちらも脱ぎっぷりがよくて、セックスシーンがドラマの中核を作っていく望月作品に貢献してます。ラストシーンなんて、一糸まとわぬ宮前希依のヘアヌードがあるからこそ、ハッピーエンドとして成立するようなもの。

 ちんけな男がちょっぴり男の意地を見せたからといって、大それたことが起きるわけじゃない。でも意地を張ってつかんだ小さな幸せのはかなさやもろさを、優しく大切に守っていこうとする姿には感動してしまう。山崎まさよしのテーマ曲もよかった。ホロリと来ます。


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