星願 あなたにもういちど

2000/09/22 松竹試写室
事故で急死した青年が5日間だけ地上に戻る。
セシリア・チャン主演のラブ・ストーリー。by K. Hattori


 『喜劇王』でヒロインを演じたセシリア・チャンと、『ゴージャス』でスー・チーの幼なじみを演じたリッチー・レン主演のファンタジックなラブ・ストーリー。目が見えず口もきけないという二重のハンデを背負った青年オニオンは、障害にもめげず明るい性格で、周囲の人たちの人気者だった。だが彼はある晩、交通事故で急死してしまう。天国の入口でちょうど600億人目の訪問者に選ばたオニオンは、その特典として1つだけ願いがかなえられることになる。天使によって5日間だけ生前とは別の人間として地上に戻ることができたオニオンは、保険外交員と称して生前の自分に親切にしてくれていた若い看護婦オータムと再会するのだが……。

 映画はオニオンのナレーションで始まり、全編がオニオンの視点で語られている。僕もずっとオニオンの視点で映画を観ていた。ところがこれが大失敗。この映画はオニオンではなく、知らず知らずのうちに彼に恋心を抱いていた若い看護婦オータムに感情移入しなければならないのだ。香港では大ヒットして多くの観客の紅涙を絞った映画だというのだが、僕がまったく泣けなかったのはオニオン側から映画を観ていたためだと思う。オータム役のセシリア・チャンは、CFタレントから『喜劇王』でチャウ・シンチーに大抜擢されて一躍大スターの仲間入りをした新進女優。対してオニオン役のリッチー・レンは、広東語もろくにしゃべれない台湾人のシンガーソングライター。香港の観客ならまず一人の例外もなく、オータム側に照準を合わせて映画を観たはずだ。何も予備知識がなくても、女性観客ならオータムに感情移入しながら映画を観るはず。でも僕はそれに失敗した。

 考えてみれば、この映画はオニオン周辺のエピソードが薄いのだ。売店のオヤジ役でエリック・ツァンが出てくるが、これも関わりは薄い。対してオータム側には、姉が出てくる、同僚の看護婦たちもいる、彼女に思いを寄せているハンサムな医師もいる、そして当然オニオンもいる。エピソードのボリュームは、明らかにオータム側の方が厚くなっている。これはあまりにも不公平。僕のように間違えてオニオン側から映画を観ていた人は、これじゃ感動できないのも当たり前だ。天使役のエリック・コットの出番をもっと増やすなど、オニオン側にもエピソードのボリュームを増やす工夫がほしかった。その上で、オニオンの目を通してオータムの気持ちを丁寧に描いていければ最高だった。オニオンの視点で映画を観ている人たちを、オータム側に誘導する仕掛けが必要なのだ。これは感動できなかった僕の負け惜しみです。

 セシリア・チャンの化粧気のない顔は、いかにも純真な若い看護婦という感じでなかなか好感が持てる。'80年生まれだから、この映画が製作されたときはまだ19歳。これからますます活躍が期待できる女優だと思う。同世代の若い男性俳優たちと共に、今後の香港映画界を引っ張っていく中心人物になるだろう。アニタ・ユンの後に続けるのは彼女しかいない。

(原題:星願 Fly me to polaris)


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