2H
(ニエイチ)

2000/09/20 シネカノン試写室
国民党軍の将軍だった老人が東京で孤独な死を迎える。
フィクションを交えた異色ドキュメンタリー。by K. Hattori


 中国に生まれ、天安門事件の起きた10年ほど前に来日して日本でテレビ・ドキュメンタリーの制作などを行っている李纓(リ・イン)監督が、日本で製作した初めてのドキュメンタリー映画。プロデューサーは監督と「龍影(DRAGON FILMS)」というプロダクションを設立している張怡(ツァン・イ)で、椎名桔平主演の『発熱天使』も彼の製作した作品だという。今回の『2H』は、昨年のベルリン国際映画祭でネットパック賞(最優秀アジア映画賞)を受賞したほか、今年の香港国際映画祭では国際批評家連盟賞大賞を受賞している。タイトルの『2H』とは、映画の上映時間がピッタリ2時間(2 HOURS)であることを指しているらしい。

 この映画に登場するのは、馬晋三(マ・ジンサン)という90歳を優に越えた中国人の老人だ。彼は戦前日本に留学し、陸軍士官学校を優秀な成績で卒業。天皇の銀杯と軍刀を授与されている。帰国して孫文の参謀になるが、孫文の死後は蒋介石の国民党軍に加わって北伐に参加し、共産軍と戦う。その後は国共合作で対日戦争に加わり、終戦まで日本相手に戦争をしていた。ところが戦後に中国は共産化され、国民党政府は台湾に脱出。馬晋三は一度香港に脱出し、その後かつての敵国日本に逃れてきてそのまま住み着いた。日本では中華料理店を経営するなど、実業家としても成功したらしい。成長した子供たちはアメリカに移住して、馬老人は目黒区のマンションで一人暮らし。仕事はとっくに引退して悠々自適の毎日と言えば聞こえはいいが、近くに身よりのない老人の独居生活だから何かと不安も多い。老人の部屋には彼の身体を心配して何人かの中国人たちが出入りしているが、老人の頑固な性格が災いして口げんかも絶えない。この映画は、そんな老人の最後の1年間を記録している。

 映画には馬老人の生活ぶりを記録した部分と、馬老人の家に出入りする中国人の女性芸術家・熊文韵(シュン・ウェンイン)の生活をフィクションを交えながら撮影した部分が交互に登場する。どちらもモノクロ映像だが、場面によってグレーとセピア調とに色分けされている。撮影はすべてデジタルビデオ。ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜていくという手法は、プロデューサーの張怡が昨年製作した『発熱天使』でも行われていたものだし、そこには北京で活動するアングラ芸術家たちが大勢登場していた。たぶん今回の映画も、そうした流れの延長上にあるものだろう。ただし僕には、この映画がなぜモノクロでなければならないのか、その理由がよくわからない。ビデオのモノクロ映像は、カラー映像に比べると、情報量が10分の1以下になってしまうのではないだろうか。僕はカラーの鮮明な映像で、馬老人や熊の生活のディテールを見てみたかった。

 ひょっとしたらタイトルに合わせたのかもしれないが、この映画の2時間という上映時間は長すぎる。ダラダラと無駄に長いカットが多いのだ。心象風景のようなものかもしれないが、観ていてイライラすることも多い。


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