ホーク
B計画

2000/08/29 TCC試写室
日本人俳優・澤田謙也が香港で撮った骨太のアクション映画。
オウムをモデルにした宗教団体が出てくる。by K. Hattori


 カルト教団「聖衆の道」の教祖・吉永は、宗教法人を隠れ蓑にして組織を武装テロ集団に作り替える。事態を重く見た警察は特殊部隊を使って教団施設の強制捜査に乗り出すが、重武装の信者たちに返り討ちにあって全滅。吉永と教団幹部たちは海外に逃走する。間もなく教祖の吉永は香港警察に身柄を拘束され、日本に強制送還されることとなる。だが教団は教祖を救出するため、香港の日本領事館を襲撃。領事を射殺した上で、24時間以内に教祖を釈放しろと要求する。この事件の直前、化学薬品を積んだトラックが何者かに襲われるという事件が発生していた。教団は大量の毒ガス兵器を使って、香港の住人全体を人質に取ったのだ。警視庁特殊部隊出身の鷹見は、殺された部下や同僚たちの復讐のため、この事件にひとりで立ち向かう。香港警察のはみ出し刑事ケンも、殺された上司の仇を討つため彼と行動を共にする。

 香港で活躍する日本人スター、澤田謙也の製作・原案・主演作品。劇中に登場するカルト教団の描写がオウム事件を連想させるという理由で、2年前に完成して香港では高い評価を得ながらも、今まで日本では公開されなかった作品だという。確かに「聖衆の道」がオウムをモデルにしているのは明らか。オウムが地下鉄サリン事件を起こしたのが'95年。この映画の完成はその3年後の'98年。この年にはドキュメンタリー映画『「A」』が少し話題になりました。でもその翌年、石井輝男監督がオウム事件をモデルに『地獄』を撮っても、世間ではまったく話題にならなかった。『ホーク/B計画』を今公開しても、これを「オウムを描いた映画」と評するマスコミは少ないだろうし、ましてやオウムをモデルにすることの是非を語る人など皆無だろう。

 『ホーク/B計画』は確かにオウム事件をモデルにしている。しかしオウムそのものを描いているわけではない。これは「毒ガスを使って香港住民を丸ごと人質にするテロリスト」を描いているのだ。アイデアとしては、巨大ダムを占拠して下流住民をすべて人質にするという『ホワイトアウト』のテロリストと同じ。オウムは確かに毒ガスを作っていた。でも彼らはそれを使って、日本政府と政治的な駆け引きをするという発想はなかった。これが『ホーク/B計画』との大きな違いだ。

 映画の後半はテレビ局を占拠したテロリストたちと、そのテレビ局内で孤軍奮闘する主人公たちの戦いを描く。これは『ダイ・ハード』です。爆弾テロでクルマが吹っ飛ぶ場面は『ダイ・ハード3』。毒ガスを使って都市を丸ごと人質にするというアイデアや、地下からテレビ局に潜入した特殊部隊が返り討ちに遭うシーンは『ザ・ロック』のパクリだろう。毒ガスの威力を観客に見せるため、人間をひとり犠牲にする場面も『ザ・ロック』と同じだ。『ザ・ロック』の毒ガスのアイデアは、間違いなくオウム事件から得ているのだが……。あちこちに納得できない部分もあるが、全体としてはまずまずの映画。日本でもこんなアクション映画を作ってほしい。

(原題:B計劃 EXTREME CRISIS)


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