カラフル

2000/08/24 東宝東和一番町試写室
地上に落とされた迷える魂が自殺した中学生の身体に入り込む。
ベテランたちが丁寧に作ったファンタジー映画。by K. Hattori


 地上で犯した罪のため、天国にも地獄にも行けずに地上に差し戻されてしまったひとつの魂。その魂には、自分がどこの誰だったのか、そもそもどんな罪を犯したのか、さっぱり記憶がない。彼に課せられた使命は、地上への一時帰還の間に、自分の犯した罪を思い出すこと。とぼけた天使の声に見守られながら、迷える魂は自殺した14歳の中学生・小林真の身体に入り込む。一度は本当に死んでいたのに、突然病院のベッドで息を吹き返した真を見て、病院関係者はびっくり、家族は大喜び。だが家族の思いとは裏腹に、生前の真もその家族も、何かと問題を抱えていたらしいことが少しずつわかってくる。だがそんなことも、迷える魂にとっては他人事。今は借り物の身体と借り物の人生を、せいぜい楽しむだけだ。

 児童文学作家・森絵都の同名原作を、『(ハル)』『黒い家』の森田芳光が脚色し、『櫻の園』『12人の優しい日本人』の中原俊が監督している。主人公の真を、ジャニーズJrの田中聖が演じ、勤めていた会社をリストラされた父親をベテランの滝田栄、習い事マニアで講師にすぐ惚れる母親を阿川佐和子が演じている。看護婦マニアの兄を演じている影山悠希は、実父である滝田栄と親子共演で映画初出演。他に駒勇明日香や真柄佳奈子などが、真のガールフレンド役で出演している。鈴木砂羽、筧利夫、柳葉敏郎など、脇役の顔ぶれも立派。林家こぶ平の役柄は、結構似合っていて笑えます。

 天使や地上に戻される死者の魂という話は、ハリウッド映画によくあるアイデア。この映画ではそれを日本の中学生の話に移植して、全体を手堅くまとめていると思う。この手の子供映画では、子役の演技力や自然さが映画の雰囲気を左右してしまうのだが、この物語では主人公である迷える魂がたまたま手近にあった中学生の身体を借りているという設定なので、主人公がぶっきらぼうなしゃべり方をしたり、妙に醒めていたりしても気にならない。何しろ彼にとっては、周囲の世界も人間も、彼自身の身体や人生ですら「借り物」なのだ。彼の態度はいつだって少しよそよそしい。いずれすべてを手放すことが決まっているのだから、それも当然の反応だ。

 中学生の真がなぜ自殺しなければならなかったのか? ガールフレンドのひろかは援助交際をやめられるのか? 真の父親の仕事はどうなるのか? 真の進路は? 兄の大学受験は? この映画はそうした事柄に、性急な結論を出さない。これは物語としては不親切だが、迷いながら手探りで生きていく人生の大切さを画くこの映画では、こうした宙ぶらりんのエピソードがたくさんあるのがむしろ似つかわしい。全部が解決して「めでたしめでたし」なんて人生はこの世の中にないのです。この映画は迷える魂や天使など、ファンタジックな道具立てを使いながら、我々の周りにあるリアルな現実を描こうとしているし、それをきちんと成功させていると思う。ただし脚本も演出も妙に手慣れていて、主人公たちの不器用さが逆に伝わりにくくなっているかもしれない。


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