オーストラリアで実際に起きた事件をもとにした心理劇。
刑務所から戻った兄が家族を破滅させる。by K. Hattori
欧文表記の『DOWN UNDER BOYS』というタイトルは邦題。もともとのタイトルは、シンプルに『The Boys』という。最近はハリウッドで実話をモデルにした映画が大流行中だが、この映画も、'80年代中頃にシドニーで起きた三人兄弟による看護婦強姦殺人事件をモデルにしているという。事件に触発されて書かれたゴードン・グラハムの戯曲は'91年に初演されて大ヒットし、それが今回の映画化につながっている。舞台版に出演していたデイヴィッド・ウェイハムとリネット・カランは、舞台版と同じ役で映画にも出演している。
映画は普通、無秩序な状態から始まって少しずつ秩序だった展開を見せるものだ。映画の最初には、観客は登場人物たちについて何も知らない。そこで何が語られ、何が起きているのかを知らされていない。しかし物語が一定のどこかを目指すことで、映画は無秩序な状態を抜け出して少しずつ固くまとまってくる。物語の求心力によって、すべての人物、すべての出来事に意味が与えられるのだ。だがこの『DOWN UNDER BOYS』では、ストーリーを見せることに関しては内容を整理して一定の方向に物語の行く先を向けつつ、各登場人物やエピソードの中身においてはひたすら無秩序な状態を広げていく。あらかじめ出されている結論に登場人物を向けようとする物語の求心力と、ぎりぎりの安定と調和を見せていた家庭生活があっと言う間に崩壊してバラバラになっていく遠心力とが、映画の中でぶつかり合っている。