DOWN UNDER BOYS

2000/08/21 シネカノン試写室
オーストラリアで実際に起きた事件をもとにした心理劇。
刑務所から戻った兄が家族を破滅させる。by K. Hattori


 欧文表記の『DOWN UNDER BOYS』というタイトルは邦題。もともとのタイトルは、シンプルに『The Boys』という。最近はハリウッドで実話をモデルにした映画が大流行中だが、この映画も、'80年代中頃にシドニーで起きた三人兄弟による看護婦強姦殺人事件をモデルにしているという。事件に触発されて書かれたゴードン・グラハムの戯曲は'91年に初演されて大ヒットし、それが今回の映画化につながっている。舞台版に出演していたデイヴィッド・ウェイハムとリネット・カランは、舞台版と同じ役で映画にも出演している。

 傷害事件で1年間服役していた長男が、刑務所を出て家に帰ってくるところから物語が始まる。刑務所を出たばかりのブレットは、服役中に母親も恋人も弟たちも、1度として面会に来なかったことに文句を言う。だが事態はそれだけでは済まない。ブレットの帰宅を心から歓迎するかに見える家族だったが、彼が服役している1年の間に家の中はすっかり様変わりしていた。次男のグレンは結婚して独立。三男のスティーヴィは妊娠中の恋人と同棲している。母親はジョージという新しい恋人を家に入れている。恋人ミシェルの態度も、どこかよそよそしい。彼女は自分が留守中に誰かと浮気をしていたのではないか。ブレットが隠し持っていたヤクもきれいさっぱり姿を消している。かつて家の中を取り仕切っていたブレットは、帰宅した家の中で自分が軽んじられていると感じる。自分の知らないところで家族がそれぞれの生活を始めたということが、彼の自尊心を傷つける。

 映画は普通、無秩序な状態から始まって少しずつ秩序だった展開を見せるものだ。映画の最初には、観客は登場人物たちについて何も知らない。そこで何が語られ、何が起きているのかを知らされていない。しかし物語が一定のどこかを目指すことで、映画は無秩序な状態を抜け出して少しずつ固くまとまってくる。物語の求心力によって、すべての人物、すべての出来事に意味が与えられるのだ。だがこの『DOWN UNDER BOYS』では、ストーリーを見せることに関しては内容を整理して一定の方向に物語の行く先を向けつつ、各登場人物やエピソードの中身においてはひたすら無秩序な状態を広げていく。あらかじめ出されている結論に登場人物を向けようとする物語の求心力と、ぎりぎりの安定と調和を見せていた家庭生活があっと言う間に崩壊してバラバラになっていく遠心力とが、映画の中でぶつかり合っている。

 映画の中ではすべての人間関係が壊れていく。長男が帰宅した途端、まるで強烈な化学反応が起きたかのように家の中の様子が一変する。おそらくこの家族はもともと壊れていたのだろう。ブレットが服役中、誰も面会に行かなかったことがそれを証明している。

 物語の中に将来起こる事件を何度も挿入することで、登場人物たちの現在と過去と未来をひとまたぎに俯瞰する手法はユニーク。単純にエピローグとして未来を提示するより、ショックの度合いが大きい。

(原題:The Boys)


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