『紅の拳銃』よ永遠に

2000/08/01 TCC試写室
高校最後の夏休みに映画を作ろうとする若者たちの物語。
日活芸術学院の25周年記念作品。by K. Hattori


 調布の日活撮影所内にある日活芸術学院が、開校25周年記念に作った小品。高校生活最後の夏休みに、自分たちの映画を作ろうとする少年少女たち。エレキギターを16ミリカメラに持ち替えた『青春デンデケデケデケ』みたいな雰囲気の映画だ。主役の高校生たちを演じるのは新人ばかりで、演技はちょっと頼りないところも多い。話の筋立てや脇のエピソードも、ちょっと古くさい。でもこの映画には、「映画を作りたい!」「映画作りは面白い!」という、映画少年たちの素朴な情熱がぎっしり詰まっている。作り手や出演者の「映画が大好き!」という気持ちが真っ直ぐ伝わってきて、同じ映画大好き人種を主人公にした『虹をつかむ男』などより余程好感が持てる映画になっていると思う。

 主人公の一平は高校3年の夏休み目前になっても、自分の進路を決められないでいる。彼が今一番気になっているのは、アイドル・タレントとして売り出し中のクラスメイト・三咲とどうやったら親しくなれるかということだったりする。雑誌のインタビューで彼女が「夢は映画女優になること」と答えているのを見た一平は、自主映画を作って彼女に主演してもらうことを思いつく。すべては三咲と仲良くなりたいという、かなりよこしまな気持ちなのだ。仲間を集め、機材を調達し、シナリオを書いて三咲に出演依頼した一平に、彼女は意外な交換条件を出す。それは自分の相手役に、札付きの不良で高校を中退した中西を出演させることだった。

 駄目なところも多い映画です。タイトルあるように、この映画では何度か『紅の拳銃』が引用されるのですが、ピカピカのニュープリントで名場面集が観られる以外に、この引用にほとんど意味がないように思えます。主人公は『紅の拳銃』を観て映画作りを決心したわけではない。最初に映画作りへの決心があって、その上で『紅の拳銃』を観るのです。一平はその映画から、何を吸収したんだろうか。『紅の拳銃』は一平たちの作る映画に、どんな影響を与えているのだろうか。あるいは『紅の拳銃』は一平の私生活にどんな影響を与えているのか。そんなことが見えてくると、この映画も引用された『紅の拳銃』も生きてくる。このあたりは『虹をつかむ男』で『男はつらいよ』を引用した山田洋次の方がうまかった。三咲役の中丸シオンは可愛いのですが、台詞がどんよりと沈んでいて一本調子。これも減点対象です。

 しかしそれでも僕がこの映画に好印象を持つのは、この作品は現在の映画がおかれている現状をきちんと見据えた上で、新しい可能性の芽を捜そうとしているからです。『紅の拳銃』を引用したことが象徴するように、映画撮影所が持っている伝統的な技術やノウハウを、新しい映画の中で継承して行こうとする意思が見えるからです。主人公が自分の部屋に入ってイスに腰を下ろすと窓の外を列車が通って行くシーンや、主人公がヒロインの秘密を知る場面で雨が降るところなど、まるで黄金期の日本映画を観ているようないい雰囲気です。


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