NAGISA
なぎさ

2000/07/21 シネカノン試写室
この話をまともに映画化するには膨大な予算がかかる。
予算不足で映画化したのは無謀だった。by K. Hattori


 村上もとかの同名コミックを、人気OV『雀鬼』シリーズの小沼勝監督が映画化した作品。試写で何本も映画を観ていると、意図することなくそれぞれの映画同士がつながってひとつの流れを作ることがある。この日は3本観た映画がすべて邦画。しかも1本目の『押切』と2本目の『SWEET SWEET GHOST』が天本英世でつながり、『SWEET SWEET GHOST』の芳田秀明監督は本作『NAGISA/なぎさ』の小沼勝監督が83年に『女囚・檻』を撮ったときの助監督という間柄……。単なる偶然なんだけど。

 『NAGISA/なぎさ』は1960年代の湘南・江ノ島を舞台にした、12歳の少女なぎさの成長物語。時代は特に指定されていないが、テーマ曲になっているザ・ピーナッツの「恋のバカンス」は昭和38年のヒット曲なので、まぁその頃の話ということだ。原作者の村上もとかは1951年(昭和26年)生まれだから、なぎさも同じ年齢だとすれば昭和38年に12歳ということになる。ちなみに小沼監督はそれよりずっと年長の昭和12年生まれ。『NAGISA/なぎさ』で描かれた昭和38年には、既に日活で助監督をしてます。

 こうした映画では時代色をどう描くかが大きなポイントになるのだが、平成12年になっている現在、どこをどう捜したって昭和38年の湘南の風景なんて残ってない。だとすれば予算をかけて、昭和38年をゼロから作る必要がある。しかしこの映画は低予算のインディーズ映画なので、そうした美術費がまったくないのだ。僕は昭和41年生まれだから、この映画に描かれている昭和38年なんて知っているはずがない。でも当時の映画や写真は見たことがあるから、雰囲気は何となくわかる。物心ついた昭和40年代半ばには、まだ昭和30年代末の匂いも残ってました。しかしこの映画には、そうした時代の匂いがしないのです。主人公がのぞき込む電気屋のショーウィンドーの後ろに、コンビニの看板が見えているのには興ざめしてしまう。海岸に集う人々のファッションや髪型も、どう見たって現代の物だ。僕は両親のアルバムで昭和40年前後を知っている。この映画に出てくる人々の様子は、それとは似ても似つかない。

 お金がなくても時間や気持ちに余裕があれば、創意工夫で不足をカバーできる余地はあったと思う。コンビニの看板は丁寧なロケハンで別の場所を探せただろうし、主人公が握りしめている古い百円硬貨だって、磨けば現役で流通しているような輝きが出る。人間の顔なんて昔も今も大差ないのだから、ファッションや小道具をほんの少し工夫すれば時代色を多少は出せただろう。でもこの映画には、そうした余裕が全くない。余裕がないなら、本来こんな映画を作っちゃいけないのかもしれない。

 ただしそうした点に目をつぶってしまえば、映画は後半になって面白くなってくる。主演の松田まどかがいかにも「土地の子」という感じで、黒く日焼けした肌が生き生きしているのです。予算がふんだんにあれば、もっともっといい映画になったのは間違いないでしょう。


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