ヘヴンズ・バーニング

2000/07/18 シネカノン試写室
工藤夕貴とラッセル・クロウが共演したオーストラリア映画。
実際に起きた花嫁狂言誘拐事件がモデル。by K. Hattori


 もう何年前の話だか記憶さえ定かではないが、オーストラリアに新婚旅行中の花嫁が突然ホテルの部屋から失踪して大騒ぎになったことがある。ところが数日もたたない内に、消えた花嫁は無事発見され、事件はすべて彼女の狂言だったと明らかになった。犯罪者に愛する妻を奪われた悲劇の夫は、一転して花嫁に逃げられた間抜けに早変わり。しかも寝取られ男のレッテルまで貼られてしまった。とんだ災難だ。この映画は、そんな実在の事件をもとにしている。工藤夕貴演ずるヒロインのミドリは、新婚旅行最終日の夜に夫のいるホテルから逃げ出す。彼女は結婚前から交際していた恋人がおり、この新婚旅行中にオーストラリアで落ち合う手はずになっていたのだ。だが土壇場になって、恋人は逃げ腰になった。彼はオーストラリアに来ることはなく、ミドリだけがひとり「幸せな新婚さん」を演じている。彼女はそれに堪えられず、すべてを捨てて現実から逃走する。何とも幼い考えで、周囲に大きな迷惑をかけたものだ。映画はここまで、ほぼ現実の事件に沿って描かれる。現実の花嫁がその後どうなったのかは知らない……。

 現実の事件から着想を得たこの映画は、逃げ出した花嫁のその後を荒唐無稽なアクション・スリラーに仕立て、幼い彼女がたくましく成長し、上辺だけの恋愛や結婚を卒業して本当の愛を知る姿を描いている。ヒロインのミドリはたまたま入った銀行で銀行強盗事件に巻き込まれ、犯人たちの人質として、今度は本当に誘拐されてしまうのだ。無事現場を離れた犯人たちは、ミドリの処遇で仲間割れ。目撃者を殺そうとするアラブ人兄弟からミドリを救い出したのは、運転手としてこの強奪計画に加わっていたコリンだった。コリンを演じているのは『インサイダー』『グラディエーター』の主演俳優で、最近はメグ・ライアンを寝取った男としてハリウッド・ゴシップの花形となっているラッセル・クロウ。この映画の後、工藤夕貴は『ヒマラヤ杉に降る雪』で本格的にハリウッド進出、ラッセル・クロウは『L.A.コンフィデンシャル』で大ブレイクすることになる。

 話の筋立てとしてはコメディ向けの素材だと思う。狂言誘拐を企てて夫から逃げた花嫁。気の進まない銀行強盗に加わって仲間を裏切り、ヒロインと逃げることになる運の悪い男。ふたりを追うのは、仲間を殺されたアラブ人のギャング親子と、自分をコケにした妻への復讐を誓う花嫁の夫、そして警察だ。凶暴な追っ手たちによって、主人公たちが通り過ぎた道には次々と死体の山が築かれる。基本的には馬鹿馬鹿しい話です。皮肉のきいたブラック・コメディとして作るのが、一番適当な話なのだ。ところが映画は、これをコメディにもせず、かといってシリアス一辺倒にもしない。どうも中途半端です。

 僕は最初から最後まで、ヒロインのミドリがどうしても好きになれなかった。「私は日本では息ができない」というヒロインに対し、同じ日本人である夫をもっとうまくからめると、面白い映画になったかもしれない。

(原題:Heaven's Burning)


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