パーフェクト・ストーム

2000/07/11 ワーナー試写室
1991年に発生した巨大嵐とそれに巻き込まれた漁船の実話を、
ウォルフガング・ペーターゼン監督が映画化。by K. Hattori


 1991年10月、別々に発生した3つの嵐が北大西洋でぶつかり合い、気象観測史上まれに見る巨大嵐が生まれた。これより少し前、マサチューセッツ州グロースターを出航した6人乗りのカジキ漁船アンドレア・ゲイル号は漁を終えて寄港の途中、この巨大嵐“パーフェクト・ストーム”の中に突っ込んでしまう。これは実話の映画化だ。監督は『U・ボート』のウォルフガング・ペーターゼン。アンドレア号の船長ビリーを演じるのはジョージ・クルーニー、同船に乗り込んでいる若い漁師ボビーを演じているのはマーク・ウォルバーグ。他にも『ブギーナイツ』『マグノリア』のジョン・C・ライリーや『アルマゲドン』のウィリアム・フィッチナーがアンドレア号の漁師たちを演じている。

 見どころはCGで作られた巨大な嵐だろう。しかしその巨大嵐を主人公たちの乗る漁船の視点から描いただけでは、嵐の巨大なスケールも破壊力の凄まじさは観客に伝わらない。風雨と波で視界が遮られてしまえば、それが小さな嵐だろうと超大型の嵐だろうと、映像化されたときに見た目の変化がないからだ。この映画では後に“パーフェクト・ストーム”と呼ばれることになる巨大嵐をさまざまな角度から描くことで、未曾有の暴風雨の巨大なエネルギーを観客に実感させようとする。天気レポーターの気象解説、ニュース映像、海に出た男たちの安否を気遣う家族や恋人や仲間たちの不安そうな顔、超高空からとらえた巨大嵐の雲、嵐に巻き込まれたヨットとその乗組員たちを救出しようとする救助隊員たちの活躍。そうした周辺情報を丁寧に描いた上で、物語はアンドレア・ゲイル号をクローズアップするのだ。

 映画がどんなに「これは事実です」と断り書きをしたとしても、それがすべて現実に起きた事実と同じになるはずはない。映画化するにあたって、多かれ少なかれ事実は脚色されるのだ。問題はそうして脚色された事実の中に、どれほどの「真実」が描かれているかだろう。この映画はアンドレア号の中で何が起きたかという「謎」に大胆に迫っていく。そこで「本当は何が起きたのか?」という事実の詳細を求めても意味はないのだろう。この映画ではアンドレア号の出来事と、空軍の救出ヘリコプターのエピソードが並行して語られる。アンドレア号で起きた出来事は救出ヘリにも起こり、救出ヘリに起きた出来事はアンドレア号にも起きるのだ。ふたつの出来事は、同じ嵐の中で自然の猛威と戦う男たちの話として、相互に密接に関わり合っている。ヘリが空中給油を諦めてから巡視船に救出されるまでのくだりは、手に汗握る大活劇であると同時に、命がけで任務のために働く男たちの絆と心意気が爆発するこの映画のクライマックス。僕はアンドレア号のエピソードより、この救出劇の顛末に感動してしまった。これがあるから、その延長上にあるアンドレア号のエピソードも嘘にならない。

 『エアフォース・ワン』でCGに文句を付けられたペーターゼン監督だが、今回はすごいと思うよ。

(原題:THE PERFECT STORM)


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