美術館の隣の動物園

2000/07/05 映画美学校試写室
『八月のクリスマス』のシム・ウナ主演のラブ・コメディ。
こんな洒落た映画が韓国で作れるとは。by K. Hattori


 結婚式場で働く女性ビデオカメラマンのチュニは、仕事先でしばしば出会うある男性に秘かに片思いをしていた。結婚式に付き物なのは有力議員のスピーチ。その議員の秘書をしているインゴンこそ、チュニが秘かに想いを寄せている相手だった。しかし彼女は、彼に自分の気持ちを打ち明ける勇気がない。一方、兵役からの休暇で恋人の部屋を訪れたチョルスは、部屋にいるのが恋人のタヘではなく、見も知らない女性であることに面食らう。化粧気もなく部屋も散らかし放題の女こそ、タヘが引っ越した後、そのまま部屋に住み着いているチュニだった。チュニが家賃を滞納していると思い込み、所持金の大半を大家に払ってしまったのも後の祭り。金も行くあてもチョルスは、やむを得ずそのままチュニの部屋に同居することになってしまう。やがてふたりは、チュニが書きかけていた公募用のシナリオを共同で執筆することになる。タイトルは『美術館の隣の動物園』だ。

 『八月のクリスマス』でヒロインを演じたシム・ウナが、ヒロインのチュニを演じるラブコメディ。性格が正反対の男と女が出会って無理矢理同居する羽目になり、さまざまな葛藤を経て恋に落ちるという定番のストーリー。主人公たちの書いているシナリオが劇中劇として演じられ、その役名が主人公たちの思い人インゴンとタヘになっているという趣向も、特に目新しさはないと思う。でも目新しさだけが映画の面白さではない我々の日常生活がとりたてて奇想天外でも波瀾万丈でもない平凡なものであったとしても、我々自身がその人生を生きているという意味で他と比較できないユニークさを持ち合わせているように、映画もそこで描かれる人間が本物であれば唯一無二の独自性を持つようになる。

 監督・脚本のイ・ジョンヒャンのデビュー作で、少しぎこちないところや作為的すぎるところもあるが、全体に軽いタッチで好印象の持てる作品。チュニの家事のできなさ加減をさんざんけなしていたチョルスが、まめまめしく食事を作ったり買物をしたりという意外な主夫ぶりを発揮する場面が面白い。カサなどの小道具を巧みに使って、ヒロインの彼への気持ちを表現するあたりも上手い。シナリオの話が恋愛論になり、それがセックスの話になって、さらに……、という場面も笑わせる。作為的すぎるのは、映画の終盤で目立つフィルター操作や現像過程での特殊な画像処理と、クライマックスで劇中劇の人物たちが主人公たちの生活に侵入してくるくだり。意図はわかるのだが、なんとも手際が悪い。ビデオ画面の挿入も、なんだか主旨がわからなかったぞ。それにビデオ画面はビデオ撮影したものをキネコした方が、雰囲気が出ると思うけどな。まぁこれは細かいことだけど。

 出会った瞬間恋に落ちる男女もいれば、互いの好意になかなか気づかない男女もいる。これは後者の恋物語。互いに好意を持っていた二人が、それぞれに自分の気持ちを自覚するくだりがもう少し鮮明に描かれていると、さらによかったと思う。これは難しいんだけどね。

(英題:ART MUSEUM BY THE ZOO)


ホームページ
ホームページへ