京極夏彦・怪
七人みさき

2000/06/30 松竹試写室
京極夏彦が企画した新機軸の『必殺!』もの。
主人公たちにもう少し強い輪郭がほしい。by K. Hattori


 人気作家の京極夏彦の「巷説百物語」「続巷説百物語」を原作にした、ファンタジックな怪奇時代劇。原作者の京極夏彦は原作の映像化にあたり、自ら企画と脚色を担当し、1シーンにゲスト出演もしている。これは京極夏彦原作ものでは最初の映画化作品ということらしいが、その実体は今年1月にWOWOWで放送されたテレビ映画に若干手を加えたものだという。もともとテレビでシリーズ化する企画があり、その1作目という位置づけらしい。劇場公開される時代劇作品としては、やはり少し安っぽいし物足りないと思うぞ。

 ある小藩の城下町で起きる、残虐な手口の連続殺人事件。城下の人々はそれを100年前に殺された城主の怨霊か、5年前に変死したミサキ御前の幽霊か、あるいは伝説の妖怪「七人みさき」の祟だと噂し合っている。そんな騒然とした城下に集まったのは、御行の又市、山猫廻しのおぎん、戯作者の山岡百介の三人組。彼らはそれぞれに情報を集め、やがて連続殺人事件が陰惨な無惨絵を真似たものであることや、その無惨絵を購入したのが城主・北林弾正であることを突き止める。妾腹の弾正は病弱な兄に代わって数年前から城主となったが、その時期と連続殺人の発生時期が符合するのだ……。

 原作者の京極夏彦は『必殺!』シリーズの大ファンということもあり、この映画も基本的には『必殺!』と同じタイプの娯楽時代劇になっている。違うのは、恨みや呪いや怨念といった情念に、幽霊や怨霊や祟りという超常現象系の味付けをしているところ。どうやら主人公たちは、常人にはない不思議な能力の持ち主らしい。しかし残念なのは、映画を観ていてもその能力がどんなものなのかよくわからないこと。通常の物理空間と、物理法則を超えた超能力の境界線がどこにあるのかを明確にしておかないと、主人公たちの活躍ぶりに首を傾げてしまうばかりだ。シリーズ化するのなら(するのか?)、そのあたりはもう少し考えてほしいような気もする。

 監督は「鬼平犯科帳」「剣客商売」「髪結い伊三次」などのCX系時代劇を演出していた酒井信行。主演は田辺誠一、遠山景織子、佐野史郎など。田辺誠一はミスキャストだと思うのだが、これはキャラクターの造形がいまひとつはっきりせず、田辺誠一という俳優の地金で勝負するしかなかった結果だと思う。脚本段階でもっと役柄を作り込んでいけば、田辺誠一でも構わないと思うんだけどね。どうせ時代考証なんてそっちのけの、荒唐無稽な時代劇なんですから。

 本家本元の『必殺!』シリーズが終わってしまったのだから、その衣鉢を継ぐ作品が現れてきたっていいと思う。そういう意味では『必殺!』を名ばかり引き継いだ中途半端な作品より、この『怪』の方が新鮮さと可能性を感じさせる。主人公たちが行く先々で事件に出くわし、それを解決して行くという水戸黄門型の設定だから、物語にもいろいろなバリエーションが作れるだろう。でもこの1作目を見る限り、劇場映画としてシリーズ化する可能性は薄いかも。


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