ステューピッド・イン・ニューヨーク

2000/06/14 徳間ホール
次々とトラブルに巻き込まれるレドモンドの恋の行方は?
脇役は面白いが、主役に魅力なし。by K. Hattori


 失業してアパートも追い出されたレドモンドは、定職に就かずぶらぶらしている伯父から、簡単なお使いを頼まれる。黄色いポリ袋に入った小さな包みを、駅で待っている男に届けてほしいというのだ。何かと評判の悪いこの伯父の頼みを、ついうっかり聞いてしまったレドモンドは、約束の駅で近づいてきた男が、別の男たちと突然銃撃戦を始めて面食らう。男たちは車で走り去り、レドモンドは荷物を持ったまま呆然。あわててポリ袋の中を見ると、それはどう見ても麻薬の包みだ。レドモンドはこうしてドツボにはまる。

 伯父がギャングから横領しようとした麻薬の包みが、なぜか無関係なレドモンドの手元に残ってしまうという不条理。伯父と共にギャングの前に引っ張られていったレドモンドは、とっさに「荷物は渡した」とその場を取り繕うが、ギャングのボスは明らかに疑惑の眼差し。これ以来、彼にはピッタリとギャングの尾行が付く。行き場のないレドモンドは友人宅に転がり込むが、ビールの安売りで地元のチンピラたちと競合関係になっている友人は、仕事中に銃を乱射される始末。右も左も物騒な中で、レドモンドの心の慰めは、地下鉄の中で出会った年上のスチュワーデスだけだった。

 この映画の中では、2つの物語が並行して描かれる。ひとつは麻薬を巡るドタバタ。もうひとつはスチュワーデスとのラブストーリー。僕の印象では、どちらも少し中途半端で食い足りない。登場人物はみんな魅力的なのに、物語がそれらをうまく動かし切れていないのだ。例えばジェームス・ウッズ演じる伯父なんてじつに魅力的な人物なのに、最大の魅力を発揮するのはサングラスと車を盗む最初の登場シーンだけで、あとは脇の点景に甘んじてしまう。マイケル・ラパポート演じる主人公の友人も、彼を狙うチンピラたちも、見るからに面白そうな人物たちなのに物語に直接からんでこない。リリ・テイラーが演じている主人公の元ガールフレンドも、ギャングのボスもその腹心の部下も、ただ出てくるだけで話に積極的にからんでこないのが物足りない。これだけ魅力的に人物を描ける監督なのに、脚本の構成力が弱いのかな。ひとつひとつのシーンは面白くても、まとまったシークエンスになると力が失われてしまう。

 ケヴィン・コーリガン演じる主人公レドモンドが、そもそもあまり押し出しの強いキャラクターではない。仕事をなくし、アパートを追い出されても、ただボンヤリと過ごしている。友人に仕事をあてがわれても「これは僕の仕事じゃない。僕には仕事より大切なことがある」と言って逃げるだけ。結局こいつは何がやりたいのかサッパリわからない。元ガールフレンドのハッピーとの関係もわかりにくいし、なぜ彼がスチュワーデスを追いかけ回すようになったのかという動機も不明。登場人物の中で、一番魅力のないのがこの主人公かもしれない。

 『ロッキー』シリーズのバート・ヤングがギャングのボスを好演。本当に、脇役だけは素晴らしい映画です。

(原題:KICKED IN THE HEAD)


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