Cut/カット!

2000/06/12 シネカノン試写室
未完成の“呪われたホラー映画”に秘められた秘密とは?
アイデアはともかく、まったく恐くないぞ。by K. Hattori


 撮影中に出演者による監督殺害事件が起き、その後も作品を完成させようとしたプロデューサーが事故死したり、後任の監督が何者かに殺されたりという事件が相次いだことから、すっかり「呪われた映画」というレッテルを貼られてしまったホラー映画『熱い血』。忌まわしい事件から12年後、『熱い血』の助監督は今や映画学科の教授になっているが、彼から呪いの話を聞いた映画学科の学生たちは興味津々。卒業制作として『熱い血』の未完成部分を追加撮影し、「呪われた映画がついに公開!」という話になれば興行的にも成功するに違いないと考える。教授の強い反対にも関わらず、アメリカから主演女優が呼ばれ、事件現場となった屋敷で再び撮影が始まる……。

 物語はホラー映画の撮影現場から始まる。モリー・リングウォルド演じるヒロインが謎の殺人鬼に襲われるシーンに差し掛かるや、カイリー・ミノーグ演じる女性監督が「カット、カット、カット!」と金切り声をあげる。どうやら殺人鬼役の俳優が、事前の打ち合わせ通りの演技をしなかったらしい。撮影を打ち切り、殺人鬼役の俳優に毒づく監督の部屋で、その晩監督が殺される。そんなこんなで映画は12年間もお蔵入りするわけだが、この映画の冒頭を観る限り、お蔵入りした理由は映画が呪われているからではなく、単に映画がつまらなかったからではないかと勘ぐってしまったぞ。ヒロインのモリー・リングウォルドは、かなり、いや相当、はっきり言ってだいぶ太めで、凶悪な殺人鬼から逃げ回る“可憐なヒロイン”“哀れな犠牲者”という感じがまったくしない。『オフィス・キラー』を観ていたときもそうだけど、僕はこの女優が殺されそうな場面になると「早く殺っちまえ!」と殺す側に感情移入してしまうのだ。一体全体、僕をここまでサディスティックな気持ちにさせてしまう彼女の存在って何なんでしょ?

 ホラー映画としての新味はほとんどない。新味がなくてもサスペンスとショックを交互に繰り出してくれば、ホラー映画はそこそこ恐いものに仕上がるはずなんですが、この映画のヌルさ加減は一体……。音響がモノラルだというハンデはあるにせよ、まったく芸のないカットの切り返しや中途半端なクローズアップなど、この監督のホラーセンスのなさには笑ってしまいそうになる。他の映画を丸ごとマネしたっていいから、もっと普通に恐い映画にしてくれないとなぁ。犯人の凶器も「植木用の剪定ばさみ+ナイフ」というわけのわからないもの。この手の映画の凶器に不可欠なまがまがしさもなければ、有無を言わさぬ理不尽な暴力を象徴する凶暴さもない。

 学生監督がなぜこの映画にこだわるのかや、学生クルーの中にある人間関係など、どれも取って付けたようなものばかりで、まったくドラマとしては盛り上がらない。監督は新人のキンブル・レンドール。学生たちが卒業制作にホラー映画を作るという話だが、この映画自体が学生の卒業制作レベル(こんなこと言ったら学生に失礼かも)なんだからしょうがないよ。

(原題:CUT)


ホームページ
ホームページへ