LOST ANGELES

2000/06/05 GAGA試写室
日本人ロックバンドのメンバーがアメリカの砂漠で聖霊に出会う。
何がやりたいんだかよくわからない映画。by K. Hattori


 “エロス”をテーマに5人の映画監督が5本のビデオ映画を作るという「MOVIE STORM」のラストを飾る作品だが、これがまったく面白くないので困ってしまった。監督は『私立探偵 濱マイク』シリーズの林海象。全編アメリカ・ロケまでして、なんでこんな映画を作ってるんでしょうか。そもそもこの映画に“エロス”というテーマがあるのか? “エロス”というテーマを「セックス」や「濡れ場」に限定してしまう必要はないけれど、この映画にはおよそ“エロス”を感じさせるところが皆無。こんな作品が登場するということは、「MOVIE STORM」という企画自体が破綻しているということに他ならない。エグゼクティブ・プロデューサーの伊藤秀裕は、企画のコンセプトをどう考えているのだろうか。この映画には、「映画撮影」という名目で林海象をアメリカ旅行に送り出したという意味しかないよ。

 日本でのライブ活動に退屈し始めたロックバンド“SUNNY CRUISER”(以下「サニクル」と略)のメンバー3人は、ワールドワイドな活動の場を探しにアメリカに旅立つ。メンバーの妹の家を突然訪ねたり、有名音楽プロデューサーの自宅にアポなしで押し掛けたり、行き当たりばったりのアメリカ珍道中。やがて3人はラスベガスへ。ルーレットで馬鹿勝ちしてスウィートルームに泊まったり、その晩のうちに有り金をすってホテルから逃げ出したりしながら、3人はアリゾナの砂漠を目指して車を飛ばす。地図の読み違えから道のど真ん中でガス欠になったサニクル三人衆は、車を捨てて砂漠に歩み出す。あてもなく砂漠を歩き回る3人の前に、不思議な若い女が現れる。一体彼女の正体は何者なのか……。

 そもそもいろんな部分がチグハグで、何がやりたいのかよくわからない映画です。“エロス”というテーマを無視したのは確信犯だと思いますが、ではこの映画は別の何をやりたかったのか、それがまったく見えないから戸惑ってしまう。ロックバンド主演のロードムービーなら、彼らの演奏シーンは入れておくべきだと思うけれど、この映画にはそれすらほとんどない。(彼らが車で移動を始めて「ロードムービー」になってからは1曲も演奏しない。移動の前に申し訳程度に短い演奏シーンが挿入されている。)『LOST ANGELES』というタイトルが何を意味しているのかも不明。映画の前半がモノクロで、サニクルの車が砂漠でエンコしたところでようやく画面がカラーになるという『オズの魔法使』風の構成も、カラーとモノクロの対比に一貫性がない。サニクルのメンバーが迷い込む不思議な世界がカラーで、現実の世界がモノクロなのだとしたら、なぜ金山一彦が登場するシーンや、最後に聖霊が立ち去った後の風景がモノクロにならないのだろうか。

 ホピ族の伝説に登場するという“スパイダーウーマン”を日本人の女優(神野三鈴)が演じているのも、映画の狙いとははずれてないだろうか。広大なアメリカの風景中で、画面に登場するのが全員コテコテの日本人ばかりというのが、なんだかヘンテコなんだよね。砂漠に迷い込んだ日本人たちがネイティブ・アメリカンの神話に触れる話なら、それなりの配役をしてくれないと……。


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