M:I-2

2000/06/01 イマジカ第1試写室
『ミッション:インポッシブル』の続編は名作『汚名』のリメイク?
ジョン・ウー監督のアクション演出は名人芸。by K. Hattori


 人気テレビシリーズ「スパイ大作戦」を映画化した『ミッション:インポッシブル』の続編。前作で生き残った主人公イーサン・ハントに与えられた使命は、製薬会社によって極秘に開発された細菌兵器とワクチンを盗み出すこと。上司からパートナーとして指名された女泥棒ナイアと、ハントはいつしか恋に落ちる。だがナイアは細菌強奪グループのリーダー、アンブローズの元恋人だった。ハントはアンブローズ側の情報を得るため、彼女を敵陣に送り込まなければならない……。

 主人公ハントを演じるのはトム・クルーズで、ナイアを演じるのは『妻の恋人、夫の愛人』や『グリッドロック』『シャンドライの恋』などで映画ファンにはお馴染みのサンディ・ニュートン。主人公が恋人を敵陣に送り込まなければならなくなり苦悩するという場面で、僕はヒッチコックの『汚名』を思い出した。少なくともハントとナイアの関係については、『汚名』のケーリー・グラントとイングリット・バーグマンの関係をそのままなぞります。パーティーの場面が競馬場に変わったり、ヒロインの危機が別の形にアレンジされたりはしていますが、ほぼ『汚名』のリメイクと言ってもいい。「ぴあ」に載っているジョン・ウー監督のインタビューを見ると、どうやら監督本人もヒッチコックの作品を意識しているようです。『汚名』をグラントの側から描くと、『M:I-2』になるのかもしれません。

 ジョン・ウー監督のアクション演出は相変わらず名人芸ですが、今回はアクションの内面にある心理的な葛藤が弱く、華麗なアクションも単なる視覚サーカスに終わってしまった面がある。唯一ジョン・ウーらしさを感じさせたのは、研究所に追いつめられたハントが脱出するくだり。生きるか死ぬかというギリギリの場面で、自分の内蔵をえぐられるような心理的葛藤に追い込まれていく感覚が感動を呼ぶのです。何かを守るために戦っているのに、守るべき対象が無防備なままさらされている危機感。自分の目の前で大切なものが汚されたり失われたりするのを、ただ見ていることしかできない無力感。そうした強い葛藤の片鱗が、この脱出場面にはあります。

 この映画では、敵役にもう少し魅力があるとドラマが盛り上がったと思う。『汚名』の面白さは、敵役の男がヒロインを愛するあまり墓穴を掘ること。『M:I-2』では敵役のアンブローズがもう少し抜け目ないのだが、それでも彼にはナイアを愛してほしかった。それがどんなに独りよがりで傲慢な愛であっても構わない。彼は彼なりにナイアを愛しているからこそ、それが裏切られたときはより残酷になる。この映画の中では三人が三人とも、それぞれに愛を裏切ったり裏切られたり、裏切られたと誤解したり誤解されたりしている。そのあたりを丁寧に描いていくと、そこに心理的な葛藤が生まれてアクションも生き生きしてきたと思うんだけどな。もちろん十分に面白い映画だと思いますが、いつものジョン・ウー節を期待するとちょっと裏切られるかも。

(原題:MISSION:IMPOSSIBLE II)


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