グラディエーター

2000/05/30 イマジカ第1試写室
リドリー・スコットの最新作は古代ローマ帝国が舞台。
家族を殺された将軍が皇帝に復讐する。by K. Hattori


 パックス・ロマーナ(ローマの平和)と呼ばれるローマ帝国の全盛時代は、紀元後1世紀から2世紀にかけておよそ80年続いた五賢帝時代を頂点としている。ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスまで続く時代、皇帝たちは帝位の世襲によって権力が腐敗することを避けるため、人格と能力に優れた人物を養子に迎えて指導者の地位を譲ったと言われている。五賢帝最後の皇帝マルクス・アウレリウスは、「自省録」などの著作でも知られる哲人皇帝。だが彼はそれまでの慣例に反して、皇帝の地位を息子コモドゥスに譲ってしまう。いったいなぜ? リドリー・スコットの最新作『グラディエーター』は、そんな歴史の謎に大胆な解釈で踏み込んでいく。

 じつは皇帝も自分の後継者として有能な将軍アエリアス・マキシマスを指名していたのだが、実子であるコモドゥスはそれを妬んで父を暗殺し、マキシマスを謀反人として処刑するよう部下に命じたのだった。要人を処刑する際は謀反や復讐の危険を避けるため、一族郎党すべてを皆殺しにするのが古代のならい。間一髪危機を逃れたマキシマスが故郷に帰ったとき見たものは、無惨にも殺された自分の家族の焼けこげた死体だった。傷つき疲れたマキシアスは剣闘士(剣奴)に身を落とすが、皇帝へ復讐する機会は意外にもすぐやってきた……。

 最近すっかり不調だったリドリー・スコット監督の最新作。主人公マキシマスを演じるのは『インサイダー』のラッセル・クロウ。若き皇帝コモドゥスを演じるのはホアキン・フェニックス。見どころはなんといっても、スコット監督一流の映像演出テクニックを駆使した大規模戦闘シーンの数々。映画の冒頭にあるローマ大軍団とゲルマニア人戦士たちの戦いでは、シネスコ画面一杯にひしめく無数の兵士たちが入り乱れて肉弾戦を演じ、さながら『プライベート・ライアン』の冒頭にあったオマハビーチの戦闘のローマ帝国版を見せてくれる。その緻密さとボリュームは圧倒的。しかしそれ以上に興奮するのは、ローマのコロシアムに連れてこられた剣闘士たちが、戦車の女兵士たちを打ち負かしてしまう場面。圧倒的な不利を勇気とチームワークで乗り切った主人公は、ここで一躍民衆のヒーローになるのだ。

 『デュエリスト/決闘者』や『1492・コロンブス』でこだわった緻密な時代考証と、『ブレード・ランナー』でこだわった美術やデザインへの情熱が、この映画の中で見事に一体化。映像派監督リドリー・スコットの面目躍如という作品だ。ドラマは様式的で芝居がかっているが、これだけ大仕掛けの舞台を用意して人間がせせこましい演技をしてもしょうがない。気になったのは、皇帝と元老院の対立という政治劇と、主人公の復讐劇がうまく結びつかないところ。この時代のローマでは帝位が禅譲されるのが慣例だったということが最初に提示されていると、マキシウスとコモドゥスの対立の根がもっと明確になったと思う。それでも2時間半、まったく飽きさせないのはさすが!

(原題:Gladiator)


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